人体の表面部位で最も脆弱とされ、その複雑な構造から“露出した脳”とまで比喩される “眼球”は非常に デリケートな感覚器官である。 人間が有する基本的な感覚器官、即ち視覚・聴覚・触覚・味覚・嗅覚から成る“五感”で得られる空間情報の 総和の内、およそ80パーセント以上は眼球からの視覚情報とされるほど、眼球(=視覚情報)は社会活動 において最も重要な外界情報把握用“センサー”としての機能を担う。 無論、常に予測し得ない危険と共存する戦闘員ともなれば、眼球の機能損失による結果が自身や仲間の生存を 左右し得るほど重要な事態をもたらすことは言うに及ばない。 このように外界情報の把握において絶対不可分である一義的機能を有しながら、その精緻な構造から極めて脆弱 である眼球は、戦場のような極めて過酷な環境においては人為的に保護することが理想的である。 その役目を果たすための個人装具がゴーグルやグラスに代表される各種の“眼鏡保護装具:アイウェア(Eyewear)”だ。 軍隊や警察SWATを始めとしたタクティカルユースなどでは主に太陽光や砂塵、埃、風雨などを含む自然環境、 レーザー光線や赤外線などの人為的光源、また銃火器のブラスト(発射ガス)や各種の爆風・爆圧、 高温で排出される薬莢などに対する眼球の保護を主体とする。 昨今、これに加え、対テロ特殊部隊などが敢行するCQBオペレーションで常套的に多用される屋内への急襲手法 “ダイナミックエントリー”においては、非致死性兵器として用いるスタングレネード (特殊音響閃光弾)の爆風・爆圧、その際に生ずるガラス断片などから眼球を保護することが目的となる。 各国でCQBオペレーションを専門とする警察SWATや対テロ部隊が本格的に創設される前から、米軍のダストゴーグル をはじめとして軍用のアイウェアは実戦で運用されていた。 しかし、当時の軍用アイウェアの多くは太陽光や砂塵、埃、風雨などを含む自然環境から眼球を保護する 機能が主体であり、長時間の装着感が悪く、耐久性の低いプラスチックレンズを用いた簡易的な構造のモデルが多かった。 これらの軍用アイウェアは自然環境からの眼球の保護というアイウェアの最低機能は満たしていたが、前述したように CQBオペレーションにおいて強烈な爆風や爆圧、ガラス断片や薬莢など様々な飛散物からも眼球を保護しなければならない 目的が加わる対テロ部隊の要求を満足に満たすレベルのものではなかった。 当初、警察SWATや対テロ部隊ではアイウェアを兼用してレンズ付きの軍用ガスマスクを用いることが多かったが、 ガスマスクは運用上の制約が多く、次第に民間のアイウェアメーカーが製造・販売していた既製品のスキーゴーグル など、プロアスリート向けの高品質スポーツ用アイウェアを積極的に採用するようになった。 高品質な民生のスポーツ用アイウェアは廉価な軍用アイウェアと異なり、通常のプラスチックレンズよりも耐久性に 優れたポリカーボネートレンズの採用や広視野を実現したレンズのカーブデザイン、さらに快適で安定した装着感を 実現した軟質フォームパッドの装備など、CQBオペレーションにおける対テロ部隊の要求を満たすモデルが多かった。 軍・警察を問わず現代戦闘における個人装備として高品質アイウェアの需要が拡大した1990年代以降、 主に従来スキーヤーやサイクリスト、モータースポーツを始めとしたスポーツユーザー向けのアイウェア を製造していた民間の各種関連メーカーが、タクティカルユーザー向けの“タクティカルアイウェア”の開発に力を注ぎだした。 その結果、現在では軍・警察などが遭遇する広範な任務の用途や状況に対応すべく、本体の軽量化やレンズの 強度向上、UV(紫外線)カットやアンチフォグ(曇り止め)システムを始めとした着用時の快適性の向上など、 様々な最新技術を用いて開発された各種アイウェアが製造・販売されており、現在では民生品と完全に区別されている。 現在のタクティカルアイウェアは防護性能に優れたゴーグルタイプと軽便なグラスタイプで大別できるが、どちらも 着用環境によって一長一短の性能を発揮する。 対テロ部隊を含め着用者は相対環境に応じて、これらのモデルを適時適正に選択して使い分けることが求められる。
■bolle X500 Tactical Goggle
― ボレー X500 タクティカル ゴーグル | |
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■bolle X800 Tactical Goggle
― ボレー X800 タクティカル ゴーグル |
■ESS Turbo C.A.M Fan Goggle - Early Model
― ESS ターボ C.A.M ファン ゴーグル(初期型) |
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■US M-1944 Sun,Wind and Dust Goggle
― US M1944 ダスト ゴーグル |
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