LAPD(ロサンゼルス市警察)を始祖とした警察特殊部隊“SWAT”誕生の地である米国には、自治権現の高い連邦制という国家の
特色から警察機関のみに止まらず、 警察権をもつ法執行関係機関、通称ロー・エンフォースメント
(“Law Enforcement”以下“LE”と称す)が国内に数多く存在している。
LAPDのような一般的な市町村警察は無論、郡警察(カウンティ・ポリス)や州警察(ステート・ポリス)、
さらには連邦政府もFBI(連邦捜査局)やDEA(麻薬取締局)、ATF(アルコール・タバコ・火器爆発物取締局)、
シークレットサービスなど数多くのLEを有し、その総数は日本の比ではない。
そして、これらのLEは任務の必要に応じ、少数精鋭から成る独自の特殊部隊を保有している場合が多い。
基本的な運用コンセプトの性格こそSWAT(特殊な武器と戦術を駆使する)に倣っているが、その名称や対応任務
は部隊を保有するLEによって様々である。
名称の違いだけでなく、LEの規模や予算によって、所属するSWAT(もしくは類似する部隊)の
編制や練度、車両から個人装具に至るまで、その能力には当然ながら目に見えた違いが生じる。
例えば連邦政府司法省の管轄にあるFBIが各支局に保有するSWATは、予算が潤沢で比較的装備の更新が早く、
米軍の現行特殊部隊と同レベルの最新装備で武装しているチームも珍しくない。
これに対して、人口が少なく財政規模の小さい市町村レベルのローカルシティの警察が保有するSWATなどでは、
予算の上限から装備の更新サイクルを耐用年数に達するまで必要最低限に抑えている場合や、隊員の私費で
装備を購入している場合も多く、FBIなどの政府機関の特殊部隊と比較すると、どうしても見劣りしてしまう。
このように一口に警察SWATと言っても、そのスタイルは所属機関や年代によって千差万別である。
今回は予算に比較的余裕がある都市部の市警察に所属する警察SWATという想定で、主に2000年代中盤から
見受けられるようになった個人装備を中心に、21世紀における米国警察SWATの現行スタンダードスタイル
というコンセプトに基づきスタイリングを行った。
1990年代のハリウッド映画など、メディアに露出する機会の多いLAPD SWATの影響から、どうしても
旧式のスナップボタンとパイルアンドフック方式のモジュラーグリッドシステムに準拠したアーマーベストと、
同じく旧式のPASGTタイプ(フリッツ)ヘルメットの組合せという1990年代
からのLAPD SWATのスタイルが、警察SWATの代名詞として今でも一般大衆に定着している感がある。
しかし、2000年代中盤以降、米軍の採用で普及したモジュラーウェビングテープ(PALS)装着方式の
アーマーベストの販売と普及が加速したことで、米国内の警察SWATの装備更新は一定の過渡期を迎えた。
警察SWAT向けボディーアーマーを製造していた米国の主だった防弾装具メーカーは、2000年代以降
モジュラーグリッドシステム対応モデルの製造を順次終了し、殆どの主力モデルでモジュラー
ウェビングテープ対応仕様へモデルチェンジを行っている。
先述したLAPD SWATにおいても、耐用年数を迎えたボディーアーマーから順次現行のモジュラーウェビングテープ
対応モデルへ換装を行っており、2000年台後半を境に旧式のモジュラーグリッドシステム対応モデルを
一切運用しなくなった。
また、ボディーアーマーと同じく、防弾装具の中核を成すバリスティックヘルメットについても軍用装備の
趨勢に追随するかたちとなっている。
1990年代の警察SWATでは、米軍で採用していたPASGT(地上部隊個人防護システム)ヘルメット、ないしは軍納入用
PASGTヘルメットを製造していた防弾装具メーカー(SPP社やGENTEX社)が、LE向けに製造するPASGTヘルメット
のデザインに倣ったPASGTタイプヘルメットが運用されることが多かった。
しかし、2000年代以降、米軍がPASGTヘルメットに代わる次世代の軍用バリスティックヘルメットとして開発配備した
MICH(Modular Integrated Communications Helmet)やACH(Advanced Combat Helmet)の普及を受け、LE向け防弾装具メーカーもこれらの次世代モデルに倣ったデザインのバリスティックヘルメットを
製造販売するようになった。
これらの次世代バリスティックヘルメットの特徴は、インナーサスペンションシステムの改良による着用時の安定性
と快適性の向上、最新の抗弾素材による防弾能力の向上と軽量化、また特殊作戦に対応できるように
ナイトビジョンゴーグル(暗視装置)やヘッドセットを始めとした各種コミュニケーションツールシステムの
運用を前提としたシェルデザインを採用している点にある。
ボディーアーマーと同様に、2000年代以降の警察SWATでも耐用年数を迎えた旧型バリスティックヘルメットから
順次次世代モデルへの換装が始まっている。
個人装具だけでなく、米国の警察SWATが運用する小火器にも2000年代を契機に大きな変化があった。 主だった変化の傾向は、元来サポートウェポンという位置付けにあった高威力軍用オートマチックライフル のプライマリーウェポン化である。 具体的には米軍が1960年代に制式採用した5.56mmX45 NATO弾薬準拠M16アサルトライフの民間向けセミオート マチック仕様ライフルであるAR-15シリーズおよび各種クローンモデルの積極採用だ。 米国内で入手が容易なAR-15シリーズなどの各種オートマチックライフル自体は、 警察SWATが誕生した当初から米国内のLEで運用されていたが、全長が長く重い軍用アサルトライフルは、 警察SWATが遭遇することの多い閉所空間におけるCQB(近接戦闘)オペレーションには適しておらず、主に後方支援用の サポートウェポンという位置付けで運用されることが多かった。 専ら人質救出作戦などのCQBオペレーションにおいては、各国の対テロ特殊部隊などでの採用が多い、H&K社製MP5シリーズ を始めとする拳銃弾に準拠した高性能サブマシンガンがプライマリーウェポンとして採用されることが圧倒的であった。 しかし、1990年代以降、高性能ボディーアーマーを始めとした各種防弾装具の入手が容易になり、さらに フルオート射撃が可能な軍用オートマチックライフルを用いた凶悪犯罪が増加するようになった。 決定打となったのは1997年に米国カリフォルニア州ノースハリッドで発生したバンクオブアメリカ銀行強盗 銃撃事件である。1997年2月28日午前9時頃、バンクオブアメリカ・ノースハリウッド支店にAK-47などフルオート 射撃可能な複数の軍用アサルトライフルで武装した2人組の強盗が押し入ったが、銀行付近を偶然 パトロール中のオフィサーに強盗の現場を目撃され、直ちに銀行付近は警官隊に全面方位された。 犯人グループはAK-47などを警官隊に向け間髪を容れず乱射し、銀行から逃走を図ろうとした。 この際、現場に駆け付けたオフィサーは、携帯している9mm口径の拳銃やポリスカーに積載しているショットガンで 応戦するも、高威力かつ長射程の犯人側の圧倒的な火力に加え、犯人グループが拳銃弾の貫徹を防ぐボディー アーマーを着用しており、致命傷を与えることができなかった。 この緊急事態にタクティカルアラートの出動要請を受けたSWATチームは、当時のプライマリーウェポンである MP5サブマシンガンとサポートウェポンであるAR-15ライフルで武装し、現場へ出動する。 このとき、SWATチーム到着までパトロールオフィサーらは火力不足を補うべく、近くの銃砲店に駆け付け、 店頭の全てのAR-15ライフルを流用した。 SWATチームの出動した後、最終的に犯人は2人とも射殺されたが、この銃撃戦で警察側11人と民間人7人を合わせて 計18人の負傷者を出した。 一連の銃撃戦で犯人側と警察側が発砲した弾数は計2千発以上に達したが、犯人以外に死者がでなかったことは 奇跡的とも言われている。 この事件以降、全米のLEでは元来拳銃やショットガンのみだったパトロールオフィサーの装備が見直され、 重武装犯に対抗可能なAR-15ライフルなどの各種オートマチックライフルが積極的に運用されるようになった。 現在ではオートマチックライフルの取扱いの専門教習を受けたパトロールライフルオフィサー制度を導入するLEも 多い。 同時にMP5サブマシンガンをプライマリーウェポンとして運用してきた警察SWATにおいても、AR-15を始めとした 5.56mm口径の各種オートマチックライフルを標準武装とするようになった。 この趨勢には、短縮モデルのカービン仕様などAR-15シリーズの派生モデルやカスタムクローンモデルが非常に 豊富になったこと、またモジュラーウェポンシステムなどの普及でタクティカルライトやレーザーサイト、 光学照準器などの各種オプションデバイスの運用が容易になり、CQBオペレーションなどの特殊作戦にも 十分対応可能になったという点も大きく影響している。 2001年の9.11世界同時多発テロ事件の発生による国内テロ対策重視の流れも加わり、2000年代以降は5.56mm口径 オートマチックライフルをプライマリーウェポンとする警察SWATが加速度的に増加した。 ただし、警察SWATにおいて従来プライマリーウェポンとして用いられていたサブマシンガンの需要が完全に 消えた訳ではなく、基本性能の高いH&K MP5などの9mm/10mm口径サブマシンガンは多目的用のサブガンとして 運用され続けることが多い。 各国の主要銃器メーカーもタクティカルマーケットの需要増加を受け、従来のサブマシンガンと同サイズに近い 特殊作戦向けコンパクトライフルを相次いで販売し、 米国の警察SWATなどのLEではAR-15シリーズベースのカスタムモデルのほか、H&Kが軍用のM4カービンライフル をベースデザインに大幅な改良を施し高性能化したHK416シリーズ、H&K G36シリーズやSIG SG 550シリーズなど、 様々なオートマチックライフルが運用されている。
▲米国の主要ガンアクセサリーメーカーのひとつであるARMS(Atlantic Research Marketing System)社製の SIR(Selective Integrated Rail)システムを装着したM4A1カービンライフル(銃身長14.5インチモデル)。 2000年代以降、米軍の制式採用に始まるKAC(Knight's Armament Company)社製のRIS(Rail Interface System)やRAS(Rail Adapter System)など、 各種モジュラーウェポンシステムの一般タクティカルユースへの普及により、米国の警察SWATにおいてもこれらの AR-15ライフルシリーズ向けカスタムパーツが広く浸透した。 ARMS社製のSIR(選択統合レール)システムは、RASなど従来の一般的な左右上下のレールシステムの機能に加え、 アッパーレシーバー上部の照準線長をフルカバーするロングレールが最大の特徴である。 これにより、ダットサイトとナイトビジョンを併用したタンデム装着など、特殊作戦向けのセットアップが容易に なり、さらにレシーバーを覆うSIRが背骨の役割を果たすことで本体剛性の向上にも加味している。 SIRは既存のM4/AR-15ライフルシリーズに無加工で装着可能で、警察SWATなどのLE所属オフィサーや PMC所属オペレーターなど、米国内における各種タクティカルユースで運用が確認されている。 今回のスタイリングでは、閉所空間におけるCQB(近接戦闘)オペレーション任務向けオプションデバイスセットアップとして、 バーティカルフォアグリップと大光量フラッシュライトの機能を一体化した SUREFIRE社製M900Aタクティカルウェポンライト(出力125ルーメン/225ルーメン) 同じくSUREFIRE社製L72レーザーサイトモジュール(波長635nM/出力5mW/クラスIIIA可視光赤色レーザー)、 光学サイトとしてナイトビジョン対応モードを搭載したEOTech社製モデル552 HWS(ホログラフィック・ウェポン・サイト)を搭載した。 また、銃を保持するタクティカルスリングとして、各国のタクティカルユースで採用実績の高いEAGLE社製の M4/CAR-15カービン向け3点式タクティカルスリングであるTAS-3(Tactical Assault Sling-3)を装着している。
米国の大手タクティカル・アパレル・メーカーである5.11(ファイブ・イレブン)社製のHRTシリーズ“HRTシャツ”と“HRTパンツ”。 5.11が製造するタクティカル・ウェアは、米国の軍・警察・政府機関にて、認定トレーニングウェアや認定ユニフォームとして 20年以上もの間採用されており、世界各国のタクティカル・ユーザーにも愛用されている。 品名に冠された“HRT”とは、米国のFBI(連邦捜査局)が誇る対テロ特殊部隊“Hostage Rescue Team:人質救出部隊の略称である。 市警察や州警察が保有する警察SWATの装備や練度では、対処が難しい凶悪犯罪やテロリズムに対処するのがHRTの役割だ。 その部隊名に標榜されるように、主に籠城事件などの人質救出作戦への対処を得意とするが、国境を越えた軍事作戦 にも極秘裏に参加することもあり、準軍事組織的な性格も強い。 テロリストの殲滅を至上命令として行動する軍隊の対テロ特殊部隊とは異なり、他の警察SWATと同様に 「犯人を生きたまま捕える」ことを原則とし、警察系特殊部隊としては世界最高レベルの装備と練度を備えている。 この警察対テロ特殊部隊として最高の装備を要求する“FBI HRT”の名を冠して開発されたタクティカル・ウェアが 5.11 Tactical HRTシリーズである。
なかでもHRTシャツとHRTパンツは、対テロ特殊部隊が得意とする閉所空間における近接戦闘(CQB)や市街地戦闘での
着用に特化した最強のタクティカル・ウェアを基本コンセプトとしてデザインされた。
素材は着心地と耐久性に優れた100%コットンのリップ・ストップ生地を採用し、ボディーアーマーなどで保護されない
下半身のバイタルゾーンにあたる生地の裏側には、最新の難燃性素材であるARMORTEXと強靭なケブラー繊維が
インサートされている。
また、シャツとパンツともに外見上の最大の特徴としては、独自のエルボーパッドとニーパッドが標準装備
されている点にある。
摩擦力に優れる軟質ラバー製のパッド部分には、難燃性素材であるARMORTEXがインサートされ、さらに取り外し可能
なネオプレーン製パッドを内装することで、瓦礫の上などでも肘や膝に加わる衝撃を吸収することができる。
従来の一般的なタクティカル・ウェアには、このような標準装備のパッドは装備されておらず、別途専用のパッドを
装着する必要があった。
しかし、パッドを標準装備したHRTシャツとパンツは、このパッド装着の手間やタイムロスを省くことができ、また後付けの
専用パッドのように、装着後のパッドの位置ズレや不意の脱落の心配をする必要がない。
細部のデザインにもタクティカル・オペレーターのニーズに応じた工夫が随所に反映されている。
シャツの襟部分は、必要に応じてベルクロで立襟にすることができ、素肌の露出を防ぐことが可能だ。
また、同様にシャツの袖やパンツの裾もベルクロ式のクローザーが備えられており、グローブや
ブーツを装着した際に隙間を密閉させることで、ガラス片などの異物浸入を防ぐことができる。
シャツには一般的な胸ポケットに加え、胸ポケット部分にペンポケット、左袖にはチャームライトポケット、
胸部の左右には令状や地図などの各種書類を収納できるドキュメントポケットを備えており、ポリス
オフィサーの必携装備を効率よく収納可能だ。
パンツに備えられたベルクロ付き大型スラッシュ・リアポケットは、空マガジンなどを収納するダンプポーチ
としても使用可能で、ポケットの淵の一部は、ユーティリティ・ナイフなどのクリップ式の小型ナイフを
装着可能なように生地が補強されている。
さらに、パンツ両側に備えられたベルクロ開閉式サイドポケットには、同社がコンシールド・キャリー(秘匿携帯)
任務向けにラインナップする専用ホルスターやマガジンポーチ、カフポーチなどを装着可能なBBS(Backup Belt System)
プラットフォームが装備されており、これらのデューティーギアをポケットの中に内蔵可能だ。
米国のPoint Blank Solutions Inc.(PBSI)アーマーグループ(旧DHBアーマーグループ)経営傘下子会社の
大手防弾装具メーカーとして、米軍や政府機関、法執行関係機関向け防弾装具
を製造し、業界内においては世界的な知名度を誇るトップメーカー“POINT BLANK BODY ARMOR”社が
ミリタリー・ローエンフォースメント向けに製造・販売する高性能タクティカルボディーアーマー
“SPIDER=スパイダー”のMOLLE(モーリー)システムに対応した新型バージョンアップモデル。
1973年に設立されたポイントブランク社は、世界最先端の弾道研究所と技術試験センターを擁し、
防弾装具販売のトップメーカーとして高品質高性能の製品開発および業界最速のリードタイムでの製品製造
を行っている。その高い信頼性から、米軍納入向けIBA(インターセプター・ボディー・アーマー)の製造を
始め、政府機関、警察SWATなどの特殊部隊、民間セキュリティー向け防弾装具などの開発で長年にわたり
大きなシェアを獲得している。
現在、PBSIアーマーグループには、POINT BLANK BODY ARMOR社のほか、P.A.C.A.(Protective Apparel Corporation of America)
BODY ARMOR社など数社の防弾装具メーカーが含まれている。
1990年代初頭より、警察SWATを始めとして全米のタクティカルユーザーに広く普及した
同社のHRM(High Risk Modular-vest)やその発展改良型のMRV(Modular Response Vest)など
で知られる着脱式の各種ポーチ類を一体化した高性能タクティカルボディーアーマーは、
ベルクロファスナー(パイルアンドフック)とドットボタンを利用した革新的なモジュラー・グリッド・システム
(Modular grid system)の採用により、時々の作戦行動に対応して任意に各種ポーチ類
を配置可能であるため、抗弾装具の充実に重きを置きながら、限定された屋内空間における
極短期的な強襲作戦に従事する機会の多い警察系特殊部隊には最適の装備であった。
モジュラー・グリッド・システムを応用した各種タクティカルボディーアーマーは、
対テロ作戦任務や基地周辺における保安維持任務などを担当する米軍海兵隊所属のSRT(Special Reaction Team
:特別対応班)を始めとして、警察SWATと類似した特殊作戦に従事する軍隊系特殊部隊
や準軍事組織にも多数採用された。
一方、個人装備の規格更新が比較的頻繁な米軍では海兵隊による要請の下、1997年に新規開発
が決定され、次世代のタクティカル・ロードベアリング・ギアとしてMOLLE:モーリー(MOdular Lightweight Load-carrying Equipment)
システムが開発された。MOLLEシステムは1インチ(約2.54cm)幅の高強度の耐久性ナイロン・ストラップから成る
PALS(Pouch Attachment Ladder System)ウェビングを利用した
新世代のロード・ベアリング・システムであり、戦闘行為に従事する兵士への負担を
最小限に止めながら、近年多様化する各種戦闘装備の自由で効率的な個人携行を可能としている。
2000年以降、米軍ではMOLLEシステムのために同時開発されたインターロッキングアタッチメント
システム(Inter Locking Attachment System)を施したインターセプターボディーアーマー(IBA)
や各種ロードベアリングベストの一般部隊への支給が開始され、2001年のアフガン戦争
(不朽の自由作戦)や2003年のイラク戦争(イラクの自由作戦)を始め、
過酷な戦闘環境において確固たるバトルプルーフを蓄積しており、MOLLEシステムに
代表される個人装備の固定装着規格は米軍部隊に定着した他、その普及に伴う需要増加から
全米のタクティカルギアメーカーが同規格との互換性を有した各種ポーチやタクティカル
ベストなどを積極的に製造・販売している。
その高い秀逸性から米軍部隊は無論、米軍に随伴する機会の多いPMC(民間軍事会社)
所属のプライベートオペレーターなどの各種タクティカルユーザーにまで広く普及した
MOLLEシステムであるが、その性格から個人戦闘装備更新の遅延が必然的な米国警察SWAT
では、依然として前述した従来のモジュラー・グリッド・システム準拠のタクティカル
ボディーアーマーが主要装備として使用されていた。
しかし、ローエンフォースメント(法執行関係機関)向けの各種タクティカルボディ
アーマーや米軍採用のインターセプターボディーアーマーの製造実績を誇る
ポイントブランク社は、他社に先駆けてMRVを始めとした既存のモジュラー・グリッド・
システム準拠の自社製品の製造を終了し、全米のタクティカルマーケットにおける装備
変革の趨勢に合わせた最新のMOLLEシステム対応装備への大幅なバージョンアップを図った。
その既存製品のMOLLEシステム化において中核を成す主力モデルの一つが“SPIDER:Stealth Protection
Integrated Design Equipment Resource”である。
SPIDERはMOLLEシステム化を施す以前からモジュラー・グリッド・システム準拠の
一体型タクティカルボディーアーマーとしてラインアップされており、
先発のMRVなどに並びポイントブランク社の非軍事向け主力製品として全米の警察SWATを始めとした
各種ローエンフォースメントに数多く採用されていたモデルだ。
警察SWATの使用を前提としてデザインされたSPIDERは、タクティカルエントリーベスト
に必要とされる実績ある高性能バリスティック・システムは無論、自由度の高い統合されたモジュラーシステムや作戦行動
に応じて任意に追加可能な特有の各種オプションパーツの充実など、他のタクティカル
ボディーアーマーとは一線を画する機能性や機動性、着用時の快適性を備えている。
アウターシェル本体の縫製素材にはデュポン社が開発した高強度化学繊維である
500デニールのコーデュラナイロン(Coudura Nylon)が用いられており、外部摩擦
に対する耐久性能の他、長期運用に伴う湿気やカビに対しても優れた抵抗力を有している。
ジッパー・フロント・クローザー・システム(Zipper front closure system)による
フロント・オープン・デザインを採用したアウターシェル本体は、着用時の利便性や
メンテナンス性に優れ、さらに本体側面部には樹脂製ファステックス方式の2重
ウェストストラップが備えられており、各々の着用者に応じたウェストサイズの
微調整の他、迅速な着脱も可能としている。
旧来モデルに採用されていたモジュラー・グリッド・システムのMOLLEシステム化に
際しては、正面と背面に高強度ナイロン製のモジュラー・ロード・ベアリング・ウェビング
を配列し、大手タクティカルギアメーカーなどが販売するMOLLEシステム互換の各種
ポーチと適宜併用することで、より高度な戦術的運用を可能としている。
また、正面上部左右にはシンメトリー・デザインによる滑り止め加工の施された
ライフル・リテンション・パッドが備えられているため、近年のタクティカルユーザーに
必須である両利き射撃に対応している。加えて右部には目標拘束に用いられる樹脂製の簡易手錠を
収納するフレックスカフ・コンパーメント、背面上部には負傷者を救助するための
マン・ダウン・ストラップが標準装備されている。
SPIDERの抗弾性能を構成するポイントブランク社の通暁した高性能バリスティック・システムは、 アウターシェル本体に加え、バリスティック・バィセプス・プロテクターと バリスティック・グローイン・プロテクター、バリスティック・カラー に内蔵された各ソフトアーマー(NIJ規格レベルIIIA)、さらに正面部分と背面部分に備えられた プレート・ポケットに挿入可能なハード・アーマー・プレート(NIJ規格レベルIII&IV)などの 各種コンポーネントから成っており、これらが着用者に飛来する弾丸の脅威から身体を保護する。 アウターシェル本体に内蔵する高性能ソフトアーマーは、サブマシンガンなどから発射される ハイベロシティー(高初速)の9mmパラベラムFMJ弾や44マグナム弾の貫徹を防ぐ能力を有する NIJ規格レベルIIIAで、対応脅威に応じてポイントブランク社がラインアップする4種類の バリスティック・パッケージ(価格昇順:Classic/Gold/Hi-Lite/Vision)から選択できる。 標準装備のIDパッチ装着用ベルクロ付きバリスティック・バィセプス・プロテクターは昨今のCQB(閉所空間における近接戦闘)に おいて被弾率の高い両腕部、本体内側に折畳収納が可能なバリスティック・グローイン・ プロテクターは重要脈管の集中する鼠蹊(そけい)部、バリスティック・カラーは被弾に 対して脆弱な喉部(襟部)を保護し、何れのコンポーネントも必要に応じてベルクロや 樹脂製ファステックスによる迅速な着脱が可能だ。
オプションでアウターシェル本体前後のプレート・ポケットに追加挿入可能な高強度 ファイン・セラミック製の各種ハード・アーマー・プレートは、NIJ規格レベルIIIから レベルIVまでの抗弾性能を有しているため、通常のソフトアーマーでは防御不可能な7.62mmX51 NATO弾薬 など、30口径クラスの高初速ライフル弾やアーマーピアシング(徹甲)弾の貫徹を防ぐ能力を有している。 脆性が高い一方で靭性に優れた硬質のセラミック・プレートが音速の3倍近い高初速で飛翔する 高エネルギーのライフル弾が直撃した際に、着弾部のプレート面体が局所的に崩壊することで 弾丸の運動エネルギーを吸収・緩衝し、さらにベスト本体のケブラーやスペクトラなどの軟質繊維 がプレート崩壊に伴う余剰エネルギーを最終的に伝搬・吸収することで弾丸の貫徹を阻止、着用者 へのダメージを最小限に抑える。 ただし、このようにライフル弾に対して有効な抗弾能力を有するハード・アーマー・プレートだが、 酸化系高純度の無機原料を焼き固めたファイン・セラミック(要は陶磁器の一種)であるため、一般的に 1枚あたりの重量がおよそ2〜4kg(通常は前後2枚一組で運用し、抗弾能力の高さに比例して重量が増加する)ほどあり、 個人装備の重量増加に比例して俊敏な強襲作戦に不可分な高機動性が失われるため、 通常は脅威対象の如何に応じて追加装甲挿入の是非を判断する場合が多い。 また、身体全体を覆うソフトアーマーとは異なり、通常オプションで挿入するハード・アーマー・プレートは、 心臓など重要器官のある限定的なバイタルゾーンのみ防御するという点を認識しておくことも重要である。 銃を持つ敵に対して射撃姿勢をとるときなどは、ベストに挿入したハード・アーマー・プレートが敵の正面に向くような スタンスが有効で、弾丸の侵入経路となりやすい無防備な脇腹部分を敵に正対させないようにする。
以上、旧来モデルからのバージョンアップに際してモジュラー・システムの 単なるMOLLEシステム化のみならず、日々進歩する現代戦闘の趨勢に対応させた 実戦的なモディファイが成されたポイントブランク社のSPIDERは、 旧来のタクティカルボディーアーマーから次世代装備規格への更新を図る 米国警察SWATを中心として、各種ローエンフォースメント所属のタクティカルユーザー による新規採用が順次開始されている。
ボディーアーマーの背面に取り付けた米国キャメルバック・プロダクツ社製のハイドレーション(水分補給)システム。
アスリート・スポーツシーン向けに開発された背負い式の革新的な水分補給システム“CAMELBAK=ラクダのコブ”の開発で
一躍有名になり、その商標をそのまま冠するキャメルバック社は、近年ではタクティカルユース向け製品開発
も精力的に行っている。現在ではキャメルバック本体のみならず、マグパウチやキャメルバックを予め内蔵した
タクティカルベストなど、各種タクティカルギアの開発にも取り組んでいる。
現代の対テロ部隊や警察SWATにとって、ボディーアーマーやバリスティック・ヘルメットを
始めとした各種抗弾装具は、個人装備の中核を占める必要不可欠な存在となっている。
また、少数精鋭から成る第一線の対テロ部隊のみならず、近年人命尊重を標榜する欧米先進諸国では
軍・警察・民間を問わず、タクティカルユーザーの個人装備における抗弾能力の飛躍的向上に重きが
置かれており、高性能ボディーアーマーやバリスティック・ヘルメットを始めとした各種抗弾装備の
充実に伴い、着用者の生存率や部隊士気の大幅な向上が可能となった。
しかし、この世界的趨勢に反して避けようのない新たな問題も生じてくる。
抗弾装具の充実に比例して個人装備の全体重量の増加が顕著な問題となり、さらに構造上密封性と
保温性の高いボディーアーマーの着用は、温度差の著しい極地や季節において過度の体温上昇
を誘発し、肉体的・精神的ストレスの負担、延いては脱水や痙攣、虚脱を始めとした諸症状を伴う
熱中症など、最悪の場合は生命に係わる病理的症状までも併発する危険性がある。
このような過度の体温上昇に伴うストレス環境は、抗弾装備の着用が必須でありながら、通年季節を問わず
事件対処へ出動し、少数精鋭で高度な特殊作戦を敢行する警察SWATや対テロ特殊部隊所属のタクティカル
ユーザーにとって、決して避けては通れない問題である。
高温環境に対しては訓練によってある程度の耐性を備えることができるが、過度の体温上昇や脱水症状など高温障害に
対する自己のボディーマネジメントには多かれ少なかれ必ず限界があるからだ。
このような過度の体温上昇は、理性的・理知的な状況判断能力や指揮能力などの極端な低下を招き、メンタル状態に大きな悪影響を及ぼす。
また、熱中症などの病理的症状に陥った場合は、意識障害を始めとして身体的行動能力の低下にも大きな影響を及ぼし、
最悪の場合は死に至る場合もある。
特に個々人の密接な戦術的連携が不可分な特殊部隊にとって、高温多湿の環境下で陥りやすい高温障害の発生は、
オペレーションそのものに致命的不和をもたらす死活問題になる可能性が高く、決して看過できない。
これらの熱中症(特に脱水症状)に対する最も基本的な対策は水分と塩分(電解質)の適宜補給である。
古くからミリタリーユースではキャンティーン(水筒)を用いた飲料水の携行が主流であったが、近年では
キャメルバックに代表される背負い式のリザーバータンクと飲料吸引用チューブを組み合わせた最新のハイドレーション
システムが登場しており、戦闘中などのハイリスク環境下でも迅速に水分補給ができることから、ミリタリーユース
のみならず、CQBオペレーションを専門とする警察SWATや対テロ部隊などのタクティカルユーザーにまで幅広く
普及している。
1989年に操業され、米国カリフォルニア州ペタルーマに本社を構えるキャメルバック・プロダクツ社は、 背負い式ハイドレーション(水分補給)システムのパイオニア的存在であり、同社の“キャメルバック” という商標は、ハイドレーションシステムの代名詞として世界各国で浸透している。 ハイドレーションシステムは、飲料水を内蔵するリザーバータンクとドリンキングチューブ 、そしてリザーバータンクを収納携帯するバックパックの主に3つのコンポーネントから成る。 画像のモデルは米軍を始めとしたタクティカルユースに好まれるロングネックタイプのリザーバータンク( ビースト・リザーバー ロングネック 100oz )で、およそ3リットル(100オンス)の各種飲料水を注入可能だ。 目立つカラー部品が多いスポーツ向けモデルとは異なり、タクティカルユース向けモデルは、 リザーバータンクやドリンキングチューブなどが黒を基調とした低視認性カラーで統一されているのが特徴。 また、ミリタリーユースでは必須となるNBC(核・生物・化学兵器)対応ガスマスクの運用にも対応するため、 キャメルバック独自の“HydroLink(ハイドロリンク)”と称されるモジュラーアタッチメントシステムが ドリンキングチューブに備えられており、通常の飲料用バルブからワンタッチでガスマスク接続用アダプターへ換装可能である。 通常時に使用する給水バルブである“Big Bite(ビッグ・バイト)”バルブは、伸縮性のあるゴム製のバルブを 歯でかみ合わせることで、閉じていたバルブが開き、飲用可能になるシステムだ。 この際サイフォンの原理が働くため、ストローを使うときのように飲料水を自ら吸引する必要はなく、 バルブを開放している間は自然と口内に給水される。 なお、ハイドレーションシステムを使用しない場合は、レバー式の給水ロックシステムである “HydroLock(ハイドロ・ロック)”が備えられており、不意の漏水を防ぐ。 元来各種スポーツシーン向けハイドレーションシステムを製造してきたキャメルバック社であるが、 近年では高温環境地域で活動する米軍の地上部隊を始めとしたミリタリーユース、警察SWATを始めとした各種 タクティカルユースの需要増加から、リザーバータンクを内蔵する専用バックパックやタクティカルベストなど のタクティカルギア開発部門を設け、精力的な製品開発を行っている。
欧州の大手防弾装具メーカーLBA(Lightweight Body Armour)Internationalグループに属する
米国のRBR Tactical Armor社製F6 COMBAT MKII バリスティック・ヘルメット。
RBR Tactical Armor(以下、RBR)社は、米国内の軍・警察・法執行関係機関・政府機関所属の特殊作戦部隊などを
対象としたタクティカルマーケットにおいて、NIJ規格レベルIIIA、III、IVの防弾規格を有する高性能
バリスティック・ヘルメットとバリスティック・エントリー・シールド、モジュラー・ボディーアーマー・システム
の高いシェアを獲得している。
また、これらの防弾装具および周辺タクティカルアクセサリーがDEA
(Drug Enforcement Administration:麻薬取締局)を含む多くの米国連邦政府機関を始めとし、世界各国の軍・警察・
ローエンフォースメント (法執行関係機関)所属の特殊作戦部隊などで、個人防護の標準装備として制式採用されている。
RBR社のバリスティック・ヘルメット・シリーズはオリジナルの製造装置と生産技術を用いて製造され、
品質マネジメントシステムに関するISO(国際標準化機構) 9001を認証取得し、製品製造に使用する
防弾素材の加工・管理に絶対の自信を誇る。
RBR社が製造するF6 COMBAT MKIIバリスティック・ ヘルメット(防弾ヘルメット)は、最新のアラミドケブラー製
の強化されたヘルメットシェルの防護性能に加え、 着用者にストレスを与えない軽量性を提供するため、
独自の加工技術を用いて製造されており、シリーズ共通でヘルメット本体の重量は従来モデルより30%以上軽量化されている。
全体的に小振りなヘルメットシェルは、現代戦闘に必須とされるNBCガスマスクやNVG(ナイトビジョンゴーグル:暗視装置)、
その他オプティカル・ウェポン・サイトとの併用を考慮して設計され、アサルトライフルなどオープンサイトを用いた
長銃のサイティングにも支障を来たさないデザインが特徴的だ。
さらに、このデザインは着用者に最大の周辺視野と視認性を提供し、厚手のボディーアーマーを着用した際などに
支障となる首周りの柔軟性を確保している。
また、ヘルメットに付属しているサイズ調整可能なアジャスタブル・ハーネス・システムの採用により
緊急時でもヘルメットの着脱が迅速確実に行える。
着用者に合わせてサイズ調整可能なスタンダード3ポイント・アジャスタブル・サスペンション・システムは、
3点支持タイプのチンストラップ(顎紐)に加え、大型の樹脂製チンカップを採用しているため、
従来のヘルメットに多く見られた2点支持タイプに比べて着用時の安定性が格段に高いのが特徴だ。
この着用時の高い安定性は、ナイトビジョンゴーグルやバリスティックフェイスシールドなどの重量物を
ヘルメットに装着して併用する際などに非常に適した特性といえる。
着用時の安定性および快適性と衝撃緩和効果を加味したクッション パッドがインナーの前後に取り付けられ、
ヘッドサスペンションの頭頂部には通気性の高いメッシュが備えられているため、長時間の着用でもストレスを
感じないデザインだ。
何れも従来のバリスティック・ヘルメットとは一線を画する内部デザインとなっている。
現代戦闘に必須とされる様々な通信機器類(コミュニケーション・システムツール) との併用を考慮し、
90年代の軍用ヘルメットを代表するPASGTタイプ・バリスティック・ヘルメットよりも耳の周辺部分が
より広くカットされ、PELTOR社製COMTACシリーズなど各種ヘッドセットの併用も容易だ。
この運用柔軟性の高さからF6 COMBAT MKII モデルはSWATを始めとした各種特殊部隊などに支持を受けている。
F6 COMBAT MKIIモデルにはミディアムとラージの2種類のサイズが存在。
RBR社が製造するF6バリスティック・ヘルメット・シリーズの防弾性能 は、警察SWATや対テロ特殊部隊など
CQBオペレーターの着用に推奨されるNIJ規格レベルIIIAで、ハイベロシティーの9oパラベラムFMJ弾や
44マグナム弾の貫徹を防ぐ能力を有している。
なお、抗弾素材は経年で劣化するため、通常環境でのメーカー保証耐用年数は約5年間だ。
RBR社が製造するコンバット・ヘルメット・シリーズは、この“F6 COMBAT MKII”モデルの他に、流線型のシェル本体
が特徴的なハイカットタイプの“F6 COMBAT”モデルと、米軍に制式採用され普及したPASGT
(Personal Armor System Ground Troop:地上部隊個人防護 システム)ヘルメットのシェルデザインを基に設計された
“F6 PASGT”モデルの3種類が存在し、これらの ヘルメットに対応したオプションアクセサリーとして容易に
着脱可能なバリスティック・フェイス ・シールド(NIJ規格レベルIIIA)とライオット(暴徒)投擲物対応の
ポリカーボネート製フェイス・シールドが製造されている。
現在、比較的軽量で高強度にも拘らず、レベルIIIAという高い防弾性能や着用時の安定性などに定評があるRBR社製
のバリスティック・ヘルメットは、ハイリスクエントリーを敢行する各国の軍・警察所属の特殊部隊や全米の
法執行機関などで制式採用されている。
米国に本社を置くサファリランド社は、ポリスオフィサー用レザーホルスターや各種競技用ホルスター、そして各国の
特殊部隊に使用される高性能なタクティカルホルスターを始めとした各種デューティーギア、そのほか政府機関や
警察SWATなどのローエンフォースメント(法執行機関)で使用される高性能ボディーアーマーなどを製造する総合タクティカルギアメーカーである。
同社が製造するタクティカルホルスターの最大の特徴は、ホルスター本体に従来のホルスターに多様されてきた
ナイロン素材を一切使用せず、カイデックス(アクリル変性高衝撃塩化ビニール)と呼ばれる
耐久性・耐水性・耐熱性に優れた硬いシンセティック素材を用いている点だ。
このカイデックス素材をサファリランド独自の製法で、特定の拳銃に隙間なく合致するようにホルスターデザインを
成型加工するため、従来の汎用ホルスターのように特定機種の拳銃以外とは互換性がない。反面、拳銃を収納携行
した際は、従来主流のナイロン製ホルスターに比べ、一線を画する保持安定性を発揮する。
さらに、サファリランド独自の革新的ホルスターロックシステム“SLS(セルフ・ロッキング・システム)”も
特徴のひとつだ。
従来多用されてきたタクティカルホルスターは、拳銃の収納後にスナップボタンを用いたロックを行い、親指を
用いてロックを解除するサム・ブレイク方式が主流だった。
このサム・ブレイク方式では、ドロウイング(ホルスターから銃を抜き、照準、射撃に至るまでの一連の動作)
を行う際、収納時のロッキング動作などは一度ホルスターに目をやってからではないと上手く行えなかった。
このような問題を解決するのが、サファリランド独自のロックシステムSLSだ。
SLSは、ラペリング降下を含む不安定な体勢でも脱落の心配なく確実に拳銃を保持すると同時に、ドロウの際
ホルスターに目を奪われることなく、親指ひとつで簡単かつ瞬時にロッキングの行える非常に戦術的優越性の高いホルスターシステムである。
同社が製造するカイデックス製タクティカルホルスターのなかで、最も普及率が高いのがサイ(レッグ)ホルスター
タイプの#6004/6005シリーズだ。
脚の太股部分に拳銃を保持するサイホルスターは、ボディーアーマーなどを着用し、胴体部分にホルスターを装着
できない対テロ特殊部隊や警察SWATなど、主にCQBオペレーションを専門とするタクティカルユースが好んで
使用するタイプだ。
#6004/6005ホルスターは、主にカイデックスホルスター本体と、これを支えるレッグシュラウドの2つの
コンポーネントから成り、各コンポーネントはイモネジにより任意に着脱でき、必要に応じて付け替え可能である。
また、拡張プラットフォームの役割を果たすレッグシュラウドの前後2箇所には、マガジンポーチやフラッシュバン
(特殊音響閃光弾)ホルダー、バトンホルダーなど、任務に応じて様々なオプションポーチを装着可能だ。
なお、#6005モデルは、#6004モデルの改良版で、ホルスターを吊るすハンガーストラップをクリックリリース
方式に変更しているのが最大の特徴である。
大型のファステックス(樹脂製バックル)を利用した着脱式ハーネスの採用によって、デューティーベルトからの
ホルスターの着脱が容易になった。
さらに、#6005モデルではロッキングシステムであるSLSを覆うように大型のプロテクションフードが新たに追加され
たのも特徴だ。
このフードはハンマーストラップの前面を覆い、SLSが他の装備と干渉して不意にロックが解除されたり、
対峙した敵にSLSを触られないようにする目的で装備された。
看板商品の#6004/6005カイデックスホルスターに代表される同社のホルスターシステムは、北米の約70%近い
ローエンフォーサー(法執行関係者)に採用され、その信頼性の高さから世界各国の軍・警察・政府機関
などのタクティカルユーザーにも広く浸透している。
我が国でも各都道府県警察のSIT(特殊捜査班)や銃器対策部隊、海上保安庁のSST(特殊警備隊)や特別警備隊、
海上自衛隊のSBU(特別警備隊)、陸上自衛隊普通科の市街地戦闘訓練や航空自衛隊の基地警備隊など、
国内の殆どのタクティカルユースで同社の#6004/6005ホルスターの使用が確認されている。
▲#6004/6005ホルスターシリーズのレッグシュラウド部分に装着可能なAR15/M16ライフル用マガジン対応のフラップ付き マガジンポーチ。本体はホルスターと同じく、カイデックス硬質樹脂製で非常に堅牢だ。 調整可能なスクリューにより適度なテンションでマガジンを保持しながらも、ポーチ内の側面片側にはローラー が設けてあり、マガジンの抜き差しは非常にスムーズに行える。 なお、画像ではオプションポーチ取り付けプラットフォームが3個所備えられた専用のレッグシュラウドを使用し、 3つのマガジンポーチを装着運用している。 画像のAR15/M16ライフル用マガジン対応モデルの他、MP5サブマシンガン用マガジン対応モデル、 また各種オートマチックピストル対応のピストルマガジン対応モデル、フラッシュバンポーチ、 CN/CS(催涙ガス)ポーチ、バトンポーチ、カフポーチなど、無加工で取り付け可能な数種類の オプションポーチがラインナップされている。
米国ミシガン州立大学でポリスマネジメントの博士号を取得し、30年以上に亘って軍・警察などの各種
タクティカルユースにバトン(警棒)を用いたデフェンシブ・タクティカル・テクニックを指導する
ケビン・パーソンズにより、1976年に設立された米国の総合ディフェンスウェポンメーカー
“Armament Systems and Procedures:ASP”社のタクティカルバトン。
同社の看板商品である高品質の伸縮式特殊警棒は、その信頼性の高さから全米の警察機関やFBIなどの
特殊捜査機関 、民間のセキュリティー会社などに制式採用されており、この他にも高品質手錠やトレーニング用
レッドガンなどローエンフォースメント向けアクセサリーアイテムの製造で有名だ。
米国ウィスコンシン州アップルトンに本社を置いている。
基本的にテロリストの射殺を至上命令として行動することの多い軍事組織の対テロ特殊部隊とは異なり、 警察SWATは可能な限り犯人を生きた状態で逮捕することが原則である。 警察権を行使するSWAT隊員も法に従って行動する警察官のひとりであり、必要以上の過剰な武力行使をすれば司法裁判 にかけられ法の下に処罰される場合もある。 よって、致死性兵器である銃器の使用は、他に反撃の手段がない場合のファイナルオプションであり、 犯人の武装(脅威)との相対関係に応じて反撃の手段を選ばねばならない。 基本的に護身用具としての位置付けにあるバトンは、使用方法によっては活殺の選択が可能な低致死性兵器ともいえる。 高い強度を誇る特殊鋼製のタクティカルバトン(伸縮式特殊警棒)は、小型軽量ながら驚異的な打撃力をもっており、 頭部などのバイタルゾーンを打撃すれば比較的容易に人を死に至らしめることができる。 しかし、これはセルフディフェンスを前提としたバトンテクニックの意に反した過剰な使用方法である。 バトンテクニックにおいて頭部への打撃は厳禁だ。 例えば犯人が小型ナイフなどの刃物で武装していれば、刃物を持つ手だけを打撃し、警察比例の原則に沿い 必要最低限の武力行使で敵対的反抗心を無力化させる。 普段から拳銃とバトンの両方を携帯している制服警察官と同様、警察権を行使し、凶悪犯罪に対処する SWAT隊員にも状況に応じて、バトンなどの低致死性兵器の携帯が求められる場合が多いのだ。 これらの低致死性兵器にはタクティカルバトンのほか、携帯式催涙スプレーやスタンガン(高圧電流銃)などが 用いられる場合もある。 近年では、従来型のスタンガンに加え、電流ワイヤー針を遠方に射出する銃型モデルや暴徒鎮圧向けに ショットガンなどから射出されるワイヤレスタイプモデル(米国テイザー社製の販売シェアが圧倒的なため 一般にテイザーガンと通称されている)などが米国警察を中心に普及しており、警察SWATにおいても これらのテイザーガンの携帯が多く見受けられるようになった。 しかし、これらの装備の運用に際しては、これらが“低致死性兵器:Less Lethal Weapons”であって “非致死性兵器:Non Lethal Weapons”ではないことにを十分に認識理解しておく必要がある。 先述したようにバトンは打撃箇所によっては人を殺傷することが可能で、現在米国のLEで主流になりつつある テイザーガンも長時間の過剰使用が問題になり、テイザーガンの使用が直接または間接の原因となり 使用対象者が死亡したり深刻な健康被害を被った例も数多く報告され、一部で社会問題となっている。 警察権の行使に伴う必要以上の武力行使を防止するため、これらの低致死性兵器の運用にあたっては、 十分な理解と訓練が必要不可欠だ。
米国の大手プロテクトギアメーカー“HATCH(ハッチ)”社製 の“オペレーターグローブ”。 オペレーターグローブはHATCHが製造する代表的なタクティカルグローブシリーズのひとつであり、 屋内や市街地など 閉所空間における近接戦闘(CQB)を主要な任務とし、死の危険に直面する機会 の多いSWATの要望に応えて新開発 されたアサルトミッション(強襲作戦)用グローブだ。 一般的なグローブよりも延長された手首部分は突入時に飛散するガラス断片など袖口からの異物侵入を防ぎ、 レザー(皮革)を用いた一般的なグローブに比較し、2倍以上の耐切創性を誇るアラミド繊維ケブラーを採用 した本体は、ガラス断片などの鋭利物に対して4度のカットテスト耐えるほか、摂氏427度の高温に耐える 耐燃性を有している。 また、耐摩擦性と防刃性に優れるカンガルーの皮革を採用したパーム(掌)部分には、 特殊な滑り止め加工である“Posi-Grip”が施され、武器や道具の使用に際して手の動きを妨げない。 さらに、ライフルやハンドガンなどのグリップ基部が当たる部分は厚手のレザーで補強され、ナックル部分 にも クッションパッド入りレザーが施されているほか、グローブ着用時には得られない微妙なトリガー フィーリングを要求するユーザーのために、人差し指部分は任意にカットしても解れないステッチ加工の 施されたカットリング が備わっている。これらCQBに対応した必要機能を備えるオペレーターグローブは、 爆発時に高温を発するスタングレネード、戸口破壊に用いる高性能プラスチック爆薬などを使用する ルームエントリー(屋内突入)作戦おいて、理想的 なタクティカルグローブとしての性能を有している。 製造販売が開始された2000年代以降、オペレーターグローブは米国の警察SWATを始めとして世界各国の軍・警察・PMC(民間軍事会社)所属の 各種タクティカルユーザーに使用されている。
アディダス(adidas)社(以下、アディダス)は、全世界的な販売シェアを有する欧州ドイツの大手スポーツ アパレルメーカーであり、各種スポーツシューズを始めとしたフットフェアの設計・開発においてもプロユーザー に愛用される世界トップクラスの製品を販売し、絶対的な信用とブランドロイヤリティを誇示している。 1970年代、その専門性からアディダスは同国ドイツの有する創設間もない警察対テロ特殊部隊である GSG-9(Grenzschutzgruppe 9:ドイツ連邦国境警備隊第9部隊)にタクティカルブーツを提供しており、 その際に製造され一部の部隊に採用されたとされるタクティカルブーツが同部隊の名を冠したモデル“GSG-9”だ。 従来存在した一般的なミリタリーブーツに比較し、アディダスが誇るスポーツシューズ製作の技術を用いた GSG-9ブーツは遥かに軽量であり、着用時の履き心地も良好なため、長時間の使用でも着用者に対しての負担が非常に少ないのが特徴である。 また、細かな突起形状が一面に施された特徴的なソールパターンは、特にコンクリートや金属などの人工物上で 高いグリップ力を発揮し、隠密行動時に支障となる足音の発生を極力防止することに加味している。 この特性は秘匿行動が求められる市街地戦闘や閉所空間における近接戦闘(CQB:Close Quarters Battle) などに適しており、GSG-9ブーツはその種の任務を主体とする米国内の警察SWATや軍所属の特殊作戦部隊など の一部に採用されてきた。 1990年代以降、各タクティカルギアメーカーが新技術や新素材を多用した タクティカルブーツを積極的に製作し、現代戦闘の趨勢に即した数多くの機能的タクティカルブーツが 存在する現在、過去に一世を風靡したアディダスのGSG-9ブーツは全体的な機能面において見劣りする 部分が多くなってきている。 これに伴い、2006年にドイツで開催された第18回FIFAワールドカップにおいては、一部の警備関係者に 供給するため、GSG-9ブーツを現代タクティカルブーツとしてモディファイした後継新型モデル“GSG-9.2” が製作されている。
▲細かな突起形状が一面に施された特徴的なソールパターンはGSG-9ブーツの最たる特徴であり、作戦行動の際、 その個々が猫の肉球のように作用するため、特にコンクリートやアスファルト、金属を始めとした人工物上での 活動が主体となる市街地戦闘において非常に高い静粛性と秘匿性を発揮する。 反面、市街地戦闘に特化したこの繊細なソールパターンは着用に伴う消耗が比較的早く、費用対効果の面において GSG-9ブーツは長期的運用に適していないともいえる。 ハイジャック対処を含めた人質急襲作戦など、短期的な対テロ作戦任務に特化したタクティカルブーツだ。
当サイトに掲載されている画像及び文章等の無断転載を禁じます。