警察SWATを始めとした世界各国の多くの警察系特殊部隊は、国内の限定的な治安維持任務に従事しており、
任務の性格から屋内や市街地などでの閉所空間における近接戦闘“CQB:Close Quarters Battle”に特化した組織といえる。
また軍事組織や準軍事組織に属しながらハイジャックや重要施設占拠など、凶悪な重大テロ事件などへの
対処を目的に創設された対テロ部隊は、場合によっては国境を超えた作戦任務に従事することもあるが、
多くは多種多様な任務を担う通常の軍隊系特殊部隊とは異なり、訓練や装備体系などCQBを含む
特殊任務を専門とした組織である。
これらの組織の共通任務に付帯する“CQB”は、広義には読んで字の如く近接距離での対人戦闘全般を意味するが、
狭義には主に市街地や建物の屋内、または航空機内や車両内などの閉所空間における極至近距離での戦闘全般を意味する。
ほぼ同義の概念に“CQC:Close Quarters Combat”が存在するが、こちらは主に銃火器など致死性武器を攻撃の主体
としたCQBとは異なり、徒手格闘やナイフなどを主体として、格闘技術による近接攻撃を駆使した戦闘である。
具体的には敵に対して手の届くほど接近した間合いにおける近接格闘を主体としており、基本的には徒手という
非致死性の攻撃が主体で活殺の選択が可能なため、犯人を生きたまま確保することを目的とした警察系特殊部隊では特に重視される。
CQBとCQCの概念は決して背反するものではなく、何れも近接戦闘状況における互いのメリットとデメリットを補完
しあうことができるため、対処すべき任務や敵の能力との相対関係に応じて、適宜使い分けることが重要である。
従来の軍隊が行ってきた伝統的な野外戦闘とは大きく異なる性格を有する新しい戦闘のかたちであるCQBは、
主に1970年代の欧州に吹き荒れた凶悪かつ残忍なテロリズムの数々によって、その存在を対テロ“CT:Counter Terrorism”
という対処法のなかで顕著にしていった。
当時から政治的主張を伴うテロリストの常套手段の多くが、無辜の民間人を人質にした航空機のハイジャックや
大使館を始めとして政府要人を人質にした重要施設への籠城などの強硬策であった。
いずれも武力を用いて実力排除する場合、機内や屋内の極至近距離において軍用アサルトライフルやサブマシンガン
などの強力な武器で武装したテロリストを相手とした極めて特殊で危険な任務となり、通常練度の部隊での対処は
不可能に近い。
さらに排除すべき犯人のいる空間に人質という保護すべき対象が存在していることも考慮せねばならず、閉所空間に
おけるCQBの重要性がテロリズムの横暴に苦慮する各国の治安維持組織に強く認識されていくこととなる。
このCQBを含む対テロ作戦の基本的手法を世界に先駆けて考案実践したのが、特殊作戦部隊の始祖であり世界最強の勇名
を馳せる英国陸軍特殊空挺部隊“SAS:Special Air Servise”である。
第二次世界大戦中に設立されたSASは、戦後も主に自国の支配地における共産主義勢力やIRA(アイルランド共和国軍)
を相手とした幾つもの対ゲリラ作戦に従事し、その実戦経験に裏付けされた能力の高さを世界に誇示していた。
しかし、70年代に入ると前述したように欧州を始め世界各地でテロリズムが激化、この世界的趨勢に対処するため
SASでは突入作戦などCQB専門の対テロ任務を管轄する対革命戦“CRW:Counter Revolutionary Warfare”中隊を創設した。
CRW中隊では対テロ作戦に伴うCQBテクニックなどの戦術研究は無論、CQB訓練に特化した演習施設である通称
“キリング・ハウス”を用いながら、実戦を想定した人質救出作戦や移動射撃などの訓練を常日頃から精力的に行い卓抜した
戦闘能力を維持している。
また練度の向上と同時に、併設された作戦調査班“ORU:Operations Research Unit”では屋内への突入を伴うCQBに特化した個人装備として
統合個人防護システム“IPPS:Integrated Personal Protection System”を研究・開発している。基本的な抗弾装具であるボディアーマーやバリスティックヘルメットは無論、
円滑な部隊行動を可能とする戦術通信システム、ガスマスクやユニフォームなど対処任務に応じた効率的装備の充実
を図ったIPPSは、世界で最も進んだ対テロ部隊向けのCQB装備であった。
このほかORUでは後々世界各国の特殊部隊の必須装備となる非致死性兵器スタングレネード(特殊音響閃光弾)
など、対テロ作戦の基礎となる特殊装備を開発している。
その後、実際に1980年に発生した「駐英イラン大使館占拠事件」では人質をとった完全武装のテロリストに対して、
SASのCRW中隊が人質救出作戦(ニムロッド作戦)を実行し、全世界のマスコミが注目するなか見事に作戦を成功に導き、SASの対テロ
特殊部隊としての地位と信頼を確固たるものにした。
欧州各国ではドイツのGSG-9(旧国境警備隊第9部隊)やフランスのGIGN(国家憲兵隊治安介入部隊)を始めとして、1970年代にSASのCRW中隊と同様の性格を有する
対テロ特殊部隊が相次いで創設され、CQB任務用の基本的な個人装備もSASに倣った体系となっている。
さらに現在では最強の特殊部隊として頂点のひとつに挙げられる米国陸軍のデルタフォースも創設時からSASの訓練体系
などを大きな模範としており、CQB任務を含む対テロ作戦の先鞭を着けたSASが後に相次いで創設された各国の
対テロ特殊部隊に与えた影響は非常に大きい。
SASは軍事組織に属する代表的な対テロ特殊部隊であり、基本的にはテロリストの殲滅(射殺)を至上命令として
行動するため、優秀な対テロ特殊部隊の存在そのものが凶悪テロの実行犯に対する大きな抑止力となっていることは明白である。
前述の通り基本的に現代の準軍事対テロ部隊や警察SWATは対応事案の性格上、閉所空間における近接戦闘(CQB)を 伴う主要任務に特化した組織といえる。 そのため、CQBに加え長期に及ぶ野外作戦や破壊工作など広範な軍事作戦を担う軍隊系特殊部隊とは異なり、部隊全体 で運用する装備も比較的限定され、通常の個人装備も基本的なスタイルは各国共通である。 また採用装備や規模に大きな違いがある軍隊系特殊部隊(近年では一般部隊も含め)であってもCQB作戦任務における 個人装備は警察系特殊部隊と似通ったスタイルになる場合が多い。 警察系特殊部隊・軍隊系特殊部隊ともにCQB作戦任務における個人装備の特徴のひとつが抗弾能力の重視である。 CQBでは数メートル間隔での極近距離における銃撃戦に遭遇する機会が多く、通常の野戦に比べても銃弾による 被弾率は格段に上昇する。よって作戦要員の死傷率低下のためにもボディーアーマーやバリスティックヘルメット といった各種抗弾装具の着用が必要となってくるのだ。 さらに極短期的な急襲作戦において十分な火力を発揮する必要性から、大量の弾倉や特殊音響閃光弾などの 各種ディストラクションデバイス、戸口破壊用のブリーチャーキット、さらには負傷時に使う応急処置用の メディカルキットなどを携行するため、CQB任務専用のタクティカルベストやポーチを着用するのも特徴のひとつだろう。 これに関連して携行する小火器類にも通常の野戦装備とは大きな違いがある。 通常の軍事作戦においては長射程で高威力のライフル弾に準拠したアサルトライフル(突撃銃)を標準的な メインアームとするのが普通だが、特に人質救出作戦を含むCQB作戦任務では拳銃弾に準拠したサブマシンガン (短機関銃)をメインアームとして装備する場合が多い。これはフルサイズの軍用アサルトライフルが 屋内や航空機内を始めとした閉所空間においてはオーバーサイズで操作性に支障をきたすだけでなく、 貫通力に優れた高威力のライフル弾では本来護るべき人質にも危害を及ぼす危険性があるからだ。 しかし、近年では抗弾装具の普及に伴いテロリストや凶悪犯罪者が高性能ボディーアーマーを着用している ケースも珍しくなく、抗弾装具に対して脆弱な拳銃弾を用いるサブマシンガンではなく、貫通力に優れた 高威力のアサルトライフルを始めとして各種オートマチックライフルへの回帰も見受けられる。 このほか、野戦装備では比較的軽視されるサイドアームとしての拳銃の装備も必須である。 これは作戦中にメインアームが何らかのトラブルで使用できなくなった際に、敵に反撃の隙を与えることなく 即座に射撃の継続を行うためで、CQC(近接格闘)を重視する場合などは拳銃そのものをメインアームとして使用することもある。 ここまで簡単に大まかなCQB作戦任務における装備の特徴を述べたが、この他にも専用被服やブーツ、個人用の無線機器、 非致死性兵器など様々な特徴的装備が運用される。これらの細かな装備に関しては次の項目で列挙して解説する。
米国の警察SWATなどは米軍規格のBDU(戦闘服)をユニフォームとして採用することが多いが、
欧州各国を中心に本格的な対テロ作戦を担う対テロ特殊部隊は専用に設計されたアサルトスーツを採用している。
軍・準軍事組織を問わず世界各国の対テロ特殊部隊などで採用されることの多いアサルトスーツは、
その名称の通り、屋内への急襲作戦の一種であるダイナミック・エントリーを前提としたCQBに特化した
被服(ユニフォーム)だ。
ダイナミック・エントリーは、人質救出作戦や掃討作戦、家宅捜索を始めとした屋内での特殊作戦における
最も常套的な強襲作戦の一種であり、スタングレネード(特殊音響閃光弾)に代表される非致死性兵器や
戸口破壊に用いる特殊爆薬(TNT爆薬や高性能プラスチック爆薬)などの各種ディストラクション・デバイスを
効果的に使用し、迅速な行動と攻撃によって極短期的に対象を制圧する強行手段である。
ダイナミック・エントリーに代表される特殊急襲作戦の基本的手法は、特殊作戦部隊の始祖であり、
世界最強の勇名を馳せる英国陸軍特殊空挺部隊“SAS:Special Air Servise”によって考案され、
突入作戦などCQB専門の対テロ任務を管轄するCRW(対革命戦)中隊に併設されたORU(作戦調査班)では、
屋内への突入を伴うCQBに特化した個人装備としてIPPS (統合個人防護システム)を研究・開発している。
基本的な抗弾装具であるボディーアーマーやバリスティックヘルメットは無論、円滑な部隊行動を可能とする通信システム、
ガスマスクやユニフォームなど対処任務に応じた効率的装備の充実を図ったIPPSにおいて開発された
アサルトスーツは、屋内でのCQBに特化した最も基本的な個人装備である。
先述したように、ダイナミック・エントリーに代表される屋内への強襲作戦では、スタングレネードや
戸口破壊に用いる特殊爆薬を多用するが、通常の化学繊維で縫製された被服などは直接引火、または熱源
の発する高音によって繊維自体が自然発火してしまう危険性が極めて高いため、アサルトスーツでは
縫製素材にノーメックス(Nomex)などの耐熱・耐炎性能に優れた特殊繊維が用いられる。
また、人体の露出面責を最小限に止めるため、上下一体型のカバーオール(つなぎ)タイプの
フロントジッパー・デザインを採用し、首筋が位置する襟元部分には円筒形のチャイナカラー(立襟)
や頭部保護用のガスマスクフードが装備されているモデルもある。
さらに、肘や膝を地面につけるプローン・ポジションやニーリング・ポジションでの射撃を考慮し、
肘と膝の部分にはケブラー繊維で補強された大型のクッション・パッドが予め標準装備されているため、
無理な姿勢でも肘や膝を痛めることがない。
この他、両足の太股位置に備えられたベルクロ開閉式の大型サイドポケットは、使用済みの空マガジン
を投入するためのダンプポーチとしての役割を果たしている。
限定されたCQB任務に対応した工夫が随所に施されたアサルトスーツだが、現在ではSAS-CRW中隊
の実績に倣い、軍・準軍事組織を問わず世界各国の対テロ特殊部隊や警察SWATで同種のユニフォーム
が採用されている。
画像のモデルは英国の首都警察、ロンドン警視庁の特殊部門が保有する対銃火器犯罪・対テロ警察特殊部隊
“Central Operations Specialist Firearms Command(CO19):警察特別火器班” で、人質救出作戦を
始めとしたCT“Counter Terrorism”任務において現行使用されている官給個人装備のアサルトスーツ。
その発足当初からSASと密接な関係にあり、直接の技術指導と装備供与を受けているロンドン警視庁所属の
対テロ警察特殊部隊“CO19”(2005年以前の旧名称はSO19)では、頭部保護用のガスマスクフードや
所属チーム識別用のカードホルダーなどの有無を除き、 SAS-CRW中隊で使用されているアサルトスーツ
とほぼ同型のタイプが部隊に支給されている。
アウターの縫製素材はノーメックスではない新型の耐火繊維で、インナーには防水透湿素材である
ゴアテックス(Gore-Tex)が内張りされているため、透湿性に優れながら相応の防水性能も有しており、
長時間の着用も苦にならない。
繊維自体の耐火性能維持の目的から、流水による洗濯可能回数は25回までとされており、それを過ぎると
耐火性能が極端に低下してしまうため、洗濯回数管理のチェック欄が付属のタグに印刷され、耐用回数を
上回った場合は被服部(CLOTHING SECTION)で新品に交換するように指示が記載されている。
このように通常の野戦服とは異なり、CT任務において一定の耐火性能を常に維持しなければならない
アサルトスーツは耐用回数も多くなく、消耗品に属する装備品ともいえる。
いわゆる日本で言う目出し帽は、英語圏ではその発祥の地名から“Balaclava(バラクラバ)”とも呼ばれ、そのほか
民生品ではなく特殊部隊向けの製品を製造する欧米の各種タクティカルギアメーカーでは単に
“フェイスマスク”や“フード”という名称で販売されていることが多い。
軍民問わず一般に本来は防寒用途として用いられることの多いバラクラバだが、ローエンフォースメントや
ミリタリーなどのタクティカルユース、さらに消防関係機関やカーレーサーなど比較的危険な仕事に従事する
ユーザーの間では、襲いかかる火炎や鋭利なガラス断片などからの頭部の保護、つまりヒートプロテクションと
カットプロテクションがバラクラバ着用の最大の目的となっている。
頭部保護を目的とした専用バラクラバは、防寒性に優れた毛糸を使った一般的なバラクラバとは異なり、
耐熱・耐炎繊維として代表的なノーメックス(Nomex)や防弾装具にも用いられ耐切創性にも優れたケブラー(Kevlar)といった
特殊なアラミド繊維を縫製素材に用いている。
ノーメックスなどの耐火繊維は、その利点を活かした民生製品への利用は無論、ミリタリーユースにおいても
フライトスーツやフライトグローブを始めとして、主に航空機・戦闘車両搭乗要員の耐炎・耐熱防護を想定した
個人装具に用いられる場合が多かった。しかし、人質救出作戦に代表される対テロ作戦行動に重きが置かれ、市街地戦闘
や閉所空間における近接戦闘(CQB)任務などの増加が著しい昨今に至っては、ルームエントリー(室内突入)
に特化したアサルトスーツやグローブ、頭部保護を目的としたバラクラバなど、
短期的な対テロ特殊作戦任務に従事する特殊部隊向けの個人装具に利用されることも多くなった。
以上の装備は何れも屋内強襲作戦の一種であるダイナミックエントリーに際して、爆発時に高音を発する
スタングレネード(特殊音響閃光弾)や戸口破壊に利用する高性能プラスチック爆薬、極近距離の
銃撃におけるマズルフラッシュ(発砲火炎)などからの耐熱・耐炎防護を目的としている。
頭部保護の基本装具であるバラクラバに限れば、既述の耐熱・耐炎防護に加えて、爆薬を用いるダイナミック
エントリーや窓口からのウィンドウエントリーに際して飛散するガラス断片を始めとした各種飛散物など
からの防護が大きな目的である。
さらに秘匿性の高い対テロ特殊部隊においては所属隊員の素性を敵対組織や各種マスメディアから隠匿する
意味合いも非常に大きい。
また対テロ作戦においても素顔を隠した特殊部隊は本来の人間性が感じられず、制圧対象者に対して心理的威嚇
(ショック・エフェクト)の効果を与えることも期待でき、遂行任務の性格から現代の対テロ特殊部隊にとって
バラクラバは不可分な個人装備の一種である。
画像のモデルは米国の消防関係機関やローエンフォースメント、ミリタリーユース、民間産業機関、カーレース
など多方面において着用されるノーメックス製の各種耐火フードを中心に、消防関連装具を製造・販売する
米国メーカー “Fire Brigade Manufacturing:FBM”のローエンフォースメント向けノーメックスフード。
このモデルは警察SWATを始めとしたローエンフォースメント、各種タクティカルユース向けワンホールタイプの
耐熱・耐炎フード(フェイスマスク)であり縫製素材にはノーメックスが用いられている。
また、比較的危険度の高いルームエントリー(室内突入)を考慮し、通常のスタンダードモデルに首筋保護用の
延長ビブを追加、皮膚露出部位の保護範囲を拡張した仕様となっている。
対テロCQBオペレーション向けのバラクラバは、このような両目部分をまとめて1箇所だけ穴のあいた1ホールタイプが
主流だが、呼吸や会話、突入待機など比較的長期の作戦行動で給水用ハイドレーションシステムを含む飲食が
楽なように1ホールタイプの口部分に穴を加えたデザインや両目の穴が単体であいたデザインなどの2ホールタイプ
や3ホールタイプも用いられる(既製品もあるが口部分など基本は穴をあけるだけなので部隊によっては個人裁量
でカスタムをする場合もある)。
人体の表面部位で最も脆弱とされ、その複雑な構造から“露出した脳”とまで比喩される “眼球”は非常に
デリケートな感覚器官である。
人間が有する基本的な感覚器官、即ち視覚・聴覚・触覚・味覚・嗅覚から成る“五感”で得られる空間情報の
総和の内、およそ80パーセント以上は眼球からの視覚情報とされるほど、眼球(=視覚情報)は社会活動
において最も重要な外界情報把握用“センサー”としての機能を担う。
無論、常に予測し得ない危険と共存する戦闘員ともなれば、眼球の機能損失による結果が自身や仲間の生存を
左右し得るほど重要な事態をもたらすことは言うに及ばない。
このように外界情報の把握において絶対不可分である一義的機能を有しながら、その精緻な構造から極めて脆弱
である眼球は、バトルフィールドのような極めて過酷な環境においては人為的に保護することが理想的である。
その役目を果たすための個人装具がゴーグルやグラスに代表される各種の“アイウェア”だ。
軍隊や警察SWATを始めとしたタクティカルユースなどでは主に太陽光や砂塵、埃、風雨などを含む自然環境、
レーザー光線や赤外線などの人為的光源、また銃火器のブラスト(発射ガス)や各種の爆風・爆圧、
高温で排出される薬莢などに対する眼球の保護を主体とする。
昨今、これに加え、対テロ特殊部隊などが敢行するCQBオペレーションで常套的に多用される屋内への急襲手法
“ダイナミックエントリー”においては、非致死性兵器として用いるスタングレネード
(特殊音響閃光弾)の爆風・爆圧、その際に生ずるガラス断片などから眼球を保護することが目的となる。
各国でCQBオペレーションを専門とする警察SWATや対テロ部隊が本格的に創設される前から、米軍のダストゴーグル
をはじめとして軍用のアイウェアは実戦で運用されていた。
しかし、当時の軍用アイウェアの多くは太陽光や砂塵、埃、風雨などを含む自然環境から眼球を保護する
機能が主体であり、長時間の装着感が悪く、耐久性の低いプラスチックレンズを用いた簡易的な構造のモデルが多かった。
これらの軍用アイウェアは自然環境からの眼球の保護というアイウェアの最低機能は満たしていたが、前述したように
CQBオペレーションにおいて強烈な爆風や爆圧、ガラス断片や薬莢など様々な飛散物からも眼球を保護しなければならない
目的が加わる対テロ部隊の要求を満足に満たすレベルのものではなかった。
当初、警察SWATや対テロ部隊ではアイウェアを兼用してレンズ付きの軍用ガスマスクを用いることが多かったが、
ガスマスクは運用上の制約が多く、次第に民間のアイウェアメーカーが製造・販売していた既製品のスキーゴーグル
など、プロアスリート向けの高品質スポーツ用アイウェアを積極的に採用するようになった。
高品質な民生のスポーツ用アイウェアは廉価な軍用アイウェアと異なり、通常のプラスチックレンズよりも耐久性に
優れたポリカーボネートレンズの採用や広視野を実現したレンズのカーブデザイン、さらに快適で安定した装着感を
実現した軟質フォームパッドの装備など、CQBオペレーションにおける対テロ部隊の要求を満たすモデルが多かった。
軍・警察を問わず現代戦闘における個人装備として高品質アイウェアの需要が拡大した1990年代以降、
主に従来スキーヤーやサイクリスト、モータースポーツを始めとしたスポーツユーザー向けのアイウェア
を製造していた民間の各種関連メーカーが、タクティカルユーザー向けの“タクティカルアイウェア”の開発に力を注ぎだした。
その結果、現在では軍・警察などが遭遇する広範な任務の用途や状況に対応すべく、本体の軽量化やレンズの
強度向上、UV(紫外線)カットやアンチフォグ(曇り止め)システムを始めとした着用時の快適性の向上など、
様々な最新技術を用いて開発された各種アイウェアが製造・販売されており、現在では民生品と完全に区別されている。
現在のタクティカルアイウェアは防護性能に優れたゴーグルタイプと軽便なグラスタイプで大別できるが、どちらも
着用環境によって一長一短の性能を発揮する。
対テロ部隊を含め着用者は相対環境に応じて、これらのモデルを適時適正に選択して使い分けることが求められる。
現代の軍事活動や警察活動に無線通信機器は必要不可欠なもである。
電波を利用する無線通信は長距離での車両や個人を含む移動体通信を可能とし、リアルタイムで組織と個の意思疎通による有機的な結合を可能とした。
部隊単位での意思疎通に重きが置かれた軍隊の伝統的な野戦部隊では、通信兵など特定の個人のみが無線通信機器を携行することが多く、
部隊で統一行動をとる多くの個人は無線通信機器を携行する必要がなかった。
しかし、警察SWATチームや対テロ特殊部隊をはじめとした少数精鋭の特殊作戦部隊では、作戦に参加する個々人に大きな役割と責任が課され、部隊行動での高度な戦術的連携を不可分とする。
部隊全体での情報共有などマクロ的な部隊指揮系統を含む個々の意思疎通において、非常に重要な役割を果たすのが個人携帯無線通信機器などの各種コミュニケーション・ツールである。
特に警察SWATや対テロ特殊部隊の主要任務である人質救出作戦では、突入部隊と指揮本部における正確かつ迅速な情報の共有が作戦成功の鍵を握ると言っても過言ではない。
一般にダイナミック・エントリーなど、複数の突入部隊が加わる攻撃的な奇襲手法を伴う人質救出作戦はタイミングとスピードが命であり、作戦開始後の状況は僅か数秒から数十秒単位で刻々と変化する。
最終突入地点への終結後、内外に配置した情報収集部隊や狙撃部隊からの情報を基にし、最も適切なタイミングに指揮本部から突入命令が下され、
突入を開始した突入部隊からは犯人の制圧進行状況や所在、人質の安否、
隊員の受傷などについて突発的なイレギュラーを含む様々な情報が指揮本部に送られる(無線通信の運用方法は部隊の通常作戦規定や個々の作戦によって異なるため、
作戦によっては混信防止のために現場部隊からの無線通信を突発事態発生時など必要最小限に統制する場合もある)。
これらの情報を分析統合した指揮本部は、作戦の進行に支障をきたさないように適切な行動指示を速やかに現場部隊に指示しなければならい。
これらの情報伝達に用いられるのが個人携帯用の無線機だ。送信機と受信機が一体となった無線機をトランシーバーと呼ぶ。
同時に双方で会話ができる複信方式の電話と異なり、一般的にトランシーバーは送信か受信を交互に切り替える半複信方式を採用している。
トランシーバーの電源を入れた際、通常は受信待機状態となり、送信のためのPTT(Push to Talk)スイッチを押下している間のみ送信状態に切り替わる。
つまり自分が話している間は相手の話を聞くことはできないし、相手が話しているときに自分から話すことはできない。
一見して双方で同時に会話ができる電話に比べて利点が少ないように感じるが、この方式の大きな利点は、一斉通話による組織的な情報共有が容易なことだ。
トランシーバーの電源さえ入れておけば、仮に自身への指令でなくても同一チャンネルを使用する全ての無線局の無線交信情報を聴取することができるし、
逆に個々人が送信した無線交信情報はリアルタイムで全ての無線局が瞬時に共有できる。
代表的な例が基地局や移動局(個人、車両、航空機、船舶など)から成る無数の無線局を運用する警察無線だ。
緊急指令など基地局からの一斉指令は、瞬時に数百に及ぶ全ての移動局で共有でき、
さらに現場に到着した移動局から送られる情報は司令機能のある基地局や他の移動局でも共有され、相互の連携による迅速で組織的な対応を容易にする。
通常、軍・警察などのタクティカル・ユース、特に対テロ特殊部隊で用いられるトランシーバーは、個人携行可能なサイズのハンディ・トランシーバーが一般的だ。
これらのトランシーバーは、外部に通信内容が傍受されることを防止するため、送受信情報をデジタル暗号化する盗聴防止機能を備えている。
秘匿性の高いデジタル無線機の普及により、このような第三者への情報漏洩を防ぐ最低限のセキュア通信機能は必須となった。
ちなみに米国内の警察SWATチームをはじめとして、欧米の法執行関係機関所属の特殊部隊が使用するハンディ・トランシーバーは、
無線通信機器の世界的大手メーカーであるMOTOROLA(モトローラ)社製の製品が大きなシェアを誇る。
警察SWATチームや対テロ特殊部隊において、コミュニケーション・システムはトランシーバー単体のコンポーネントだけでは成立しない。
CQBでは基本的に少なくとも常に一方の手は武器でふさがっており、悠長に手でトランシーバーを取り出し、会話している余裕はない。
従って特殊部隊では、マイク・システムとスピーカー・システムの内蔵されたヘッドセットをあらかじめ頭部に装着しておく。
送信する際は、通常トランシーバー本体に設けられているPTTスイッチを用いず、ヘッドセットとトランシーバーの中間に設けられた特殊なPTTスイッチ・ユニットを用いる。
これらのPTTスイッチ・ユニットは、ボディー・アーマーやタクティカル・ベストなどの装身具に固定するのが一般的だ。
PTTスイッチ・ユニットは厚手のタクティカル・グローブを着用していても必要なときに的確に音声送信ができるようにスイッチ部分が大型化されたモデル、
反対に意図しない誤送信で限られた通信回線の混乱を防ぐため、
スイッチ部分が極力小型化されたり、一定方向からしか押下できないようにPTTスイッチを覆う大型のシュラウドの付いたモデルなどがある。
また、ヘッドセットには搭載した種類の異なるマイク・システムやスピーカー・システムの違いによって様々なモデルがある。
最もスタンダードな露出型ブームマイクとヘッドホン型のスピーカーを採用したタイプにはじまり、
喉元の声帯振動を利用したスロート・マイクシステム、骨伝導技術を利用したボーン・コンダクション・マイクシステム、
近年では射撃時やディストラクション・デバイスなどの爆発時に生じる聴覚に有害な大音量のハザード・ノイズのみを電子的に減衰し、
会話などの周辺環境音のみ集音して出力するノイズ・キャンセリング機能を備えたイヤー・マフラーに、
スピーカー・システムとマイク・システムを組み込んだモデルも数多く採用されるようになった。
それぞれ運用上の異なった特性があるため、一概にどれが優れているというわけでなく、
どのようなコミュニケーション・システムを採用するかは実際の運用部隊の性格に左右されるところが大きく、運用環境に応じた適正な選択が求められる。
最上部画像のモデルは米国の戦術通信機器メーカーであるNEW EAGLE COMMUNICATIONS(後に“Atlantic Signal”に改名)社製のボーン・コンダクション・タイプ(骨伝導方式)のタクティカル・ヘッドセットであり、
2000年代前半まで米軍の特殊部隊やLAPD(ロサンゼルス市警察)SWATチームなどにも制式採用されていたモデルだ。
警察SWATチームなどの特殊部隊で用いられてきた従来の一般的なコミュニケーション・システムでは、
外部から受信された音声情報を外部スピーカーを通した空気伝導(気導音)で受信者(隊員)に間接的に伝搬しており、
受信者は必ず唯一の聴覚器官である外耳にスピーカー・システムやサウンド・チューブを装着するか、
もしくは周囲に音声情報が筒抜けなのを承知でハンド・スピーカーマイクなどを利用するほかなかった。
これに対して骨伝導方式のヘッドセットは受信された音声情報を機械的に微弱振動へ変換して、
その振動を頭蓋骨を通した骨導音によって鼓膜を介さず直接的に聴覚神経に伝搬する。
そのため、射撃音をはじめとした爆音やエンジン音など外部の騒音が著しい場合であっても骨導音による確実な音声伝達が可能となっている。
また、空気伝導を利用するスピーカー・システムとは異なり、骨伝導方式のヘッドセットは外耳周辺を完全に開放することが可能で、
活動環境における聴覚での状況把握にも支障をきたさず、さらに長時間着用の聴覚疲労のストレス軽減にも加味する。
なお、音声受信マイクは一般的なヘッドセットと同じくスロート・マイクシステムよりも音声品質が高く、信頼性に優れた外部露出タイプのブームマイクを採用している。
▲TCI(Tactical Command Industries)社製の“TACK-1 Tactical Assault Communication Headset”を頭部に装着したオペレーター。
1996年に米国で設立されたTCI(Tactical Command Industries)社は、特殊部隊向け先進タクティカル・ヘッドセットやPTTスイッチ・ユニットをはじめとして、
軍・法執行関係機関、民間セキュリティを対象とした各種タクティカル・コミュニケーション・ツールを開発・製造してきた戦術通信機器メーカーだ。
同社は作戦環境の異なる個々の顧客の要望に応じ、運用無線機とヘッドセット、PTTスイッチ・ユニットの互換性を確保するため、カスタム品を含む300種類近いラジオ・インターフェースをサポートしている。
また、同社の製品は世界30カ国以上に輸出され、その信頼性の高さから米軍やFBIをはじめとした連邦政府機関、各地の警察SWATチーム、各国の軍・警察特殊部隊など数多くのタクティカル・ユースに採用されている。
なお、同社は2013年に米国の大手総合タクティカル・ギア・メーカーであるサファリランド・グループ(SAFARILAND GROUP)に買収され、その系列企業となった。
同社の“TACK-1”は、着用時の快適性と軽量性を追及した耳掛けタイプのタクティカル・ヘッドセットであり、
ロー・プロフィール・デザインの採用によって、バリスティック・ヘルメットやバラクラバ、キャップをはじめとした殆どのヘッドウェアの着用を妨げないのが特徴だ。
信頼性の高い可動式のブーム・マイク・ユニットには、周囲の雑音を低減するノイズ・キャンセリング機能を備えた高性能な防水マイクロフォンが搭載されている。
また、左耳部分にのみ設けられたスピーカーは外耳を密閉しない開放式で、タクティカル・オペレーターにとって重要となる周辺環境音の聴取を妨げないように配慮されている。
なお、聴覚システムにスピーカーではなく、イヤー・モールドとサウンド・ウェーブ・イヤーコイルを採用した姉妹モデルである“TACK-2”もラインナップされている。
PTTスイッチ・ユニットは任務の内容に応じて任意のモデルを選択できるように標準では装備されておらず、オプションで同社の純正PTTスイッチ・ユニットを選択可能だ。
同社のTACK-1は、警察SWATチームの始祖であるLAPD(ロサンゼルス市警察)SWATチームにおいて、PELTOR社製“SWAT-TAC”シリーズが普及する2010年代前半まで採用されていた。
▲TCI社製“TACK-1”ヘッドセットとAtlantic Signal社製“COMBAT”シリーズPTTスイッチ・ユニットを接続した状態。 PTTスイッチ・ユニットは付属のアリゲーター・クリップを介して、タクティカル・ボディー・アーマー(サファリランド・グループ系列のPROTECH TACTICAL社製“TAC 6 PLUS HP”)に直接固定している。 負傷した“ダウン・オペレーター”用の大型エマージェンシーPTTスイッチを備えた“COMBAT”シリーズは、 その実戦的な特徴から米国内の法執行関係機関をはじめとした軍・警察特殊部隊など多くのタクティカル・ユースからの支持を得て、同社を代表するPTTスイッチ・ユニットとなった。 米国を代表する警察SWATチームを擁するLAPD(ロサンゼルス市警察)では、 側面にリモート・ボリューム・コントロール・ダイヤルを追加装備した同社の“COMBAT”シリーズを採用しており、 SWATチームやK-9(警察犬)ユニット、機動隊などの所属するメトロポリタン・ディヴィジョンなどのタクティカル・セクションにおいて使用している。
▲警察SWATや対テロ特殊部隊向けに販売されているPELTOR(3M Peltor Communication Solutions)社製の第三世代COMTACシリーズ“SWAT-TAC III ACH”を頭部に装着したオペレーター。
北欧スウェーデンで設立されたPELTOR(ぺルター)社は、産業用及び射撃用イヤー・マフラーをはじめとした聴覚保護具のトップブランドであり、
現在は米国を代表する大手複合企業である3Mカンパニーの系列企業となっている。
2000年代初頭から米軍特殊部隊などのミリタリーユースで普及が始まった同社のCOMTAC(コムタック)シリーズは、
その信頼性と運用性の高さから各国の軍・警察特殊部隊に広く普及し、現代のタクティカル・ヘッドセットの代名詞と言っても過言ではない。
COMTACシリーズの最大の特徴は、射撃音などの大音量から聴覚を保護するイヤー・マフラー機能と無線通信機器との接続によるヘッドセット機能の両方を併せ持つことだ。
イヤー・カップ本体には同社独自の優れた集音機能を有する高性能マイクが搭載され、
銃声や爆発音など聴覚に有害な一定音量以上のハザード・ノイズのみを電子的に減衰し、
通常の会話など周辺環境音のみを出力するノイズ・キャンセリング機能を有している。
このため、優れた聴覚保護機能を有しながら、戦闘部隊にとって重要な周辺環境音まで遮断してしまう通常の密閉型イヤー・マフラーに比べて、戦術的優越性を損なうことはない。
また、ヘッドセット機能の完成度も高く、本体には信頼性に優れた大型の可動式ブームマイクを搭載し、周辺環境音を出力している際に外部からの信号入力を受信した場合は、
周辺環境音の増幅率を自動的に低下させ、通信内容を鮮明に聞き取れる機能が備えられている。
ノイズ・キャンセリング機能用の電源として、左右のイヤー・カップ側面に単四電池1本を内蔵し、約250時間の連続使用が可能だ。
左方のイヤー・カップ下部に並列した2個のボタンが設けられ、一方のボタンを3秒間以上長押しするとビープ音と共に電源が入り、同様の操作で電源を切ることができる。
この左右のボタンを操作することで、出力される周辺環境音の音量を段階的に調整することができ、設定した音量は電源を切った後でも保存される。
さらに電池の消耗を防ぐため、2時間ボタンを操作しない場合は、警報音(2回のビープ音)が鳴った後、その1分後に自動的に電源が切れる仕様だ。
電池が消耗した場合も一定の警報音(30秒ごとに3回のビープ音が5分間継続)で通知した後に電源が切れるようになっている。
なお、イヤー・マフラーとしてのノイズ・キャンセリング機能とヘッドセットとしての通信機能は独立しているため、
電源が切れた状態でも外部からの信号入力を受信することが可能だ。
これらの優れた機能を両立したCOMTACシリーズは、現代の戦闘員が使用する理想的なタクティカル・ヘッドセットのひとつとして、ミリタリーユースだけでなく、
LAPD(ロサンゼルス市警察)SWATをはじめとした全米の警察SWATチームや各国の対テロ特殊部隊、PMC(民間軍事会社)オペレーターなど幅広いタクティカルユーザーに使用されている。
▲“SWAT-TAC III ACH”ヘッドセットの上からMSA社製ACH(Advanced Combat Helmet)を着用したオペレーター。 改良型のCOMTACシリーズは、予めバリスティック・ヘルメットの着用を考慮し、 イヤー・カップ本体とヘルメットの帽体が直接干渉しないように、特殊な形状をしたロー・プロフィール・デザインを採用しているため、 現代の殆どのバリスティック・ヘルメットと違和感なく併用が可能だ。 また、ライフルやサブマシンガンを構えた際、頬付けした銃床がヘッドセット本体に干渉しないようにも考慮されている。
対テロ部隊が得意とするCQBオペレーションと通常の野外戦闘では携行装備にも大きな違いがある。
長期に及ぶ偵察活動や直接戦闘を含む野外戦闘では、直接戦闘に必要な弾薬だけでなく、食糧や飲料、
自活用のサバイバルキット、応急処置用のファーストエイドキット、露営用のスリーピングギア、野戦築城用の
エントレンチングツール(携帯シャベルなど)を始めとして数日の行軍にも耐えられるだけの大量の装備品を携行する必要がある。
これに対して人質救出作戦を始めとした屋内におけるCQBオペレーションでは、多くの場合極めて短い時間で作戦が進行する。
そもそも通常のハイジャック事件や籠城事件の場合は、敵性地域での軍事作戦とは異なり、警察SWATや対テロ部隊は
疲弊することなく完全武装の状態で現場に到着し、待機中を含めあらゆる局面で優位な作戦支援を受けることができる。
そのため、急襲作戦では野戦装備とは異なり基本的に作戦に直接必要な装備だけを集中的に携行する。
具体的には極短期間で火力を発揮するための予備マガジンやスタングレネード(特殊音響閃光弾)などの
各種ディストラクションデバイス、個人携帯無線機などのコミュニケーションツール、CN/CSガスなど
催涙ガスの使用に備えたケミカルガスマスク、戸口破壊用のブリーチングキット、
犯人や人質を拘束するための手錠、また隊員や人質、犯人の負傷に備えた応急処置用のファーストエイドキットなどを携行する。
これらのCQBオペレーションに特化した専用装備を効率的に携行するロードベアリングギアがタクティカルベストである。
タクティカルベストには英国陸軍のSASのように各々の部隊の詳細な任務に合わせて専用設計されたものや
各種タクティカルギアメーカーが一般に販売しているものなど、多種多様なデザインをもったモデルが存在している。
なかでも米国の大手総合タクティカルギアメーカーとして長い歴史を誇る“EAGLE INDUSTRIES”が製造・販売する
タクティカルベスト“TAC-V1シリーズ”は、最もスタンダードなデザインを有する対テロ部隊向けタクティカルベストのひとつである。
イーグルの看板商品とも言える“TAC-V1”ベストシリーズは、軽量で通気性に優れ、堅牢なコーデュラナイロン製
メッシュタイプの多機能・汎用タクティカルベストシステムであり、機能性重視のシンプルな本体デザインながら、
ライフルクラスのマガジンポーチをフロント両腹部に 6つ備え、COLT M16アサルトライフル準拠(5.56mm×45)の
30発マガジンサイズなら計6本(計12本の携行も可能)、H&K MP5サブマシンガン準拠(9mm×19)の30発マガジン
サイズなら計12本(計24本の携行も可能)、その他にH&K G3などの30口径準拠(7.62mm×51)の大型マガジンサイズ
を計6本、携行装備することが可能であるなど、実戦に即した弾薬携行機能を有している。
また、戦闘に直接必要とされる弾薬携行機能の他にも、ファーストエイド(応急処置)キットを収納する
ファーストエイドポーチ、ハンドガンのマガジンやフラッシュライト、目標拘束に用いるハンドカフなどを収納する
ユーティリティポーチ、ショットガンの運用を考慮したショットシェルポーチ、地図などを携行するための
大型ポケットをベストのフロント内面に備えるなど、現代の標準的な特殊作戦に必要とされる必要機能を効率的に
集約している。
さらに、ベスト背面には被弾した死傷者などを迅速に救助するために用いるドラッグハンドルに加え、
ALICE(多目的軽量個人装備)クリップに対応したアタッチメント・ウェビングが3本施されており、画像のように
ラジオポーチやガスマスクポーチなど、各種オプションポーチを作戦行動の内容に従い任意に装着・運用すること
が可能だ。
画像の“TAC-V1-N-A”ベストは、同社のモデル“TAC-V1-N”ベストの発展改良型で、本体の基本デザインは完全に
踏襲しながら、ライフルストックの当てつけ位置にノンスリップショルダーパッドとリテンションガイド、
前面ポーチ部分と背面ウェビング部分に所属部隊パッチや“POLICE・SWAT”パッチなどを顕示装着するための
ベルクロパネルを標準装備するなど、昨今の対テロ特殊部隊や警察系特殊部隊のニーズに従った実戦的な改良が
施されているのが特徴だ。
同社の“TAC-V1”ベストシリーズが有する優れた基本性能は、対テロ特殊部隊や警察SWATが得意とする市街地戦闘
や閉所空間におけるCQBなどの比較的短期的な強襲作戦から、緻密な軍事作戦に不可欠な長距離偵察や威力偵察、
定期パトロール任務などの比較的長期におよぶ付帯的作戦まで幅広い作戦行動に対応しており、着用状況や着用者
を選ばない秀逸たる機能性と汎用性の高さによって、タクティカルベストのスタンダードデザインとしての地位
を不動のものにした。
以降、同社ベストの基本デザインを踏襲した類似製品が他のタクティカルギアメーカーによって多数製造さている
ことからも、その実戦に即した戦術的優越性の高さを垣間見ることができる。
現在、同社の“TAC-V1”ベストシリーズは、付属ポーチの配列や本体カラーの相違などによって画像のモデル
“TAC-V1-N-A”ベストを含む、様々な派生型が製作されており、世界各国の軍隊や司法機関を始めとした準軍事組織
の対テロ特殊部隊や警察SWAT、また PMC(民間軍事会社)や警備会社に代表される民間機関など、“TAC-V1”ベスト
シリーズはその属性を問わず幅広いタクティカルユーザーに使用されている。
我が国においても、警察の隷下にある銃器対策部隊や対テロ特殊部隊であるSAT:Special Assault Team
(特殊急襲部隊)、対ゲリラコマンドを主眼とした各種自衛隊の市街地戦闘訓練などで同社の“TAC-V1”
ベストシリーズ、もしくは類似デザインのタクティカルベストの着用が確認されている。
なお、この種のタクティカルベストは軽量であるが抗弾機能が皆無であるため、対テロ特殊部隊や警察SWATなど
が遭遇する機会の多い市街地戦闘や閉所空間におけるCQBオペレーションを始めとして、被弾確率の高い戦闘状況
では一定の抗弾能力を有するボディーアーマーと併用して着用する必要がある。
このほか、抗弾用のボディーアーマー自体に各種ポーチを付け、タクティカルベストの装備携行機能が一体に
なったモデルも存在する。
軍隊の通常の野戦部隊と対テロ部隊の携行装備の大まかな違いは前述したが、着用装備の中核を占めるボディー
アーマーやヘルメットなど各種抗弾装具着用の意味合いも野戦部隊と対テロ部隊では大きく異なる。
現在のかたちに近い実用的な軍用ボディーアーマーは、1980年代初期に米陸軍が導入を開始したIIFS(統合歩兵戦闘装備)
の構成装備の一種であるPASGT(地上部隊個人防御システム)ボディーアーマーだ。
PASGTを含め当時の軍用ボディーアーマーは主要な防弾素材であるケブラー繊維の性能上、拳銃弾程度の低初速の直撃弾は
防げても現代軍用小火器の主力であるアサルトライフルの高初速弾の貫徹を防ぐことはできなかった。
警察などの法執行機関やセキュリティ向けのボディーアーマーとしては、犯罪者の多くが拳銃程度の軽武装であるため、
拳銃弾からの防御が可能というのは大変有効であったが、先述のとおり軍用ボディーアーマーは性能限界上、戦場を
飛び交う高初速・高エネルギーのライフル弾を防ぐことはできず、基本的にはベトナム戦争当時のボディーアーマー
の運用コンセプトと同じく榴弾や跳弾から身を守るフラグメンテーション・プロテクティグ・ベスト(破片防御ベスト)
としての役割が主たるものだった。
そもそも、近代軍隊における死傷要因の殆どは銃撃戦の被弾によるものではなく、大半は砲爆撃の榴弾や爆風による
ものであり、例えライフル弾は防げなくとも、高初速で飛来する榴弾砲や手榴弾の弾殻断片の直撃を防げるというだけでも
大きな存在意義をもっていた。
これに対して対テロ部隊が専門とするCQBオペレーションにおいては、敵の攻撃手段の多くが小火器を用いた
至近距離からの銃撃によるものである。
当然のことながら軍隊の野戦部隊とは異なり、被弾確率は格段に高く実際に隊員の死傷要因の大半は被弾によるものだ。
このため、隊員の人命を重んじる各国の殆どの警察SWATや対テロ部隊は、ミリタリーユースよりもボディーアーマー
やバリスティックヘルメットなどの各種抗弾装具の充実に重きを置く傾向にある。
警察SWATや対テロ部隊向けに製造されているボディーアーマーやバリスティックヘルメットの多くは、
ハイベロシティー(高初速)のアーマーピアッシングなどの特殊弾薬を除く、大抵の拳銃弾の貫徹を防ぐこと
可能な抗弾性能(米国司法省が定めるNIJ規格であればレベルIIIA以上)を有していることが最低条件である。
また軍用では重量や機動性の関係で長時間の着用に支障をきたすことから嫌われる両上腕部保護用ヴィセプスアーマー
と股間部保護用グローインアーマー、首元保護用の大型のバリスティックカラーなども警察SWATでは好まれる。
いずれも昨今のCQBオペレーションにおいて被弾率が高く体内への弾丸進入経路となりやすい両腕部、重要脈管の集中
する鼠蹊(そけい)部、被弾に対して脆弱な喉部(襟部)を保護するが、防護より機動性を重視する作戦などでは
何れのコンポーネントも必要に応じてベルクロテープや樹脂製ファステックスによる迅速な着脱が可能な
デザインであることが求められる。
欧州の対テロ部隊ではボディーアーマーを着用した上からタクティカルベストを着用する重ね着スタイル
(日本の警視庁所属SATもこのスタイル)が昔から好まれる傾向にあるが、米国の警察SWATを中心に
ボディーアーマーと各種ポーチが一体となったモデルも広く普及している。
後者の一体型はポーチが固定式の軽便なモデルから、任意にポーチの装着位置を自由に変更できる半固定式の
モデルまで様々な種類がある。
従来、半固定式モデルのポーチ装着方式にはベルクロテープなどのパイルアンドフック方式が用いられてきたが、
米軍が次世代のタクティカル・ロードベアリング・システムとして採用したウェビングテープによるポーチ
装着方式(PALS)の規格が世界的に普及した現在では、従来のパイルアンドフック方式よりも確実にポーチの
固定ができることから、警察SWATや対テロ部隊でも同様の方式でポーチを装着できるボディーアーマーが
普及し始めている。
このほか犯人が軍用ライフルなどで武装している場合は高初速ライフル弾への対応も必要になる。
このような場合は拳銃弾に対応できるケブラーやスペクトラ繊維製のソフトアーマーに加えて、
ライフル弾に対して抗弾能力を有する硬質ファインセラミックス製のハードアーマーを併用する。
脆性が高い一方で靭性に優れた硬質のセラミックプレートが音速の3倍近い高初速で飛翔する高エネルギー
のライフル弾が直撃した際に、着弾部のプレート面体が局所的に崩壊することで弾丸の運動エネルギーを
吸収・緩衝し、さらにベスト本体のケブラーやスペクトラなどの軟質繊維がプレート崩壊に伴う余剰エネルギー
を最終的に伝搬・吸収することで弾丸の貫徹を阻止、着用者へのダメージを最小限に抑えることができる。
ただし、このようにライフル弾に対して有効な抗弾能力を有するセラミックプレートだが、酸化系高純度の
無機原料を焼き固めたファインセラミックス、要は陶磁器の一種であるため、一般に重量は一枚当たり2〜4kg程度
(基本的に抗弾能力の高さNIJ規格レベルIII〜IVに比例して重量が増加する)あり、個人装備の
重量増加に比例して機動性が失われるため、通常は脅威対象の如何に応じて追加装甲挿入の是非を判断する。
そのため通常の任務ではプレートは挿入せず、ライフル弾での被弾が考慮される状況で運用される。
抗弾装備を重視する最新の対テロ部隊や警察SWATでは、既に1980年代には本格導入していたハードアーマーだが、
銃撃による致死率の低さに対して重量増加に伴う機動性の問題や導入コストが高いことなどから、一部の特殊部隊
などを除き各国のミリタリーユースでは積極的な全面採用はされてこなかった。
しかし、21世紀に入り米軍主導の中東での軍事作戦における市街地戦闘(MOUT:Military Operation In Urban Terrain)
では、敵対勢力が元来の砲爆撃などではなく、カラシニコフ・ライフルを始めとした強力な軍用ライフルを主な
攻撃手段としており、元来少数であったライフル弾の直撃被弾による死傷者数がミリタリーユースでも増加
するようになった。
世界同時多発テロを契機に始まった2001年からのアフガン戦争において、米軍の一般歩兵部隊では新たにライフル弾
に対して抗弾能力を有するセラミックプレート(SAPI:Small Arms Protective Insert)を追加挿入可能な
インター・セプター・ボディーアーマー(IBA)の本格運用が開始され、その後も同様のセラミックプレートを
装備可能な更新モデルを続々と開発している。
この対テロ戦争の世界的な潮流に乗り、近年では日本の自衛隊を始めとした先進各国の軍隊も従来のフラグメンテーション・プロテクティブ・
ベストの役割に加え、ライフル弾への対応が可能なハードアーマーをインサート可能な次世代型の軍用ボディーアーマーを
積極的に開発・配備している。
上述したように現代の対テロ部隊や警察SWATにとって、ボディーアーマーやバリスティック・ヘルメットを
始めとした各種抗弾装具は、個人装備の中核を占める必要不可欠な存在となっている。
また、少数精鋭から成る第一線の対テロ部隊のみならず、近年人命尊重を標榜する欧米先進諸国では
軍・警察・民間を問わず、タクティカルユーザーの個人装備における抗弾能力の飛躍的向上に重きが
置かれており、高性能ボディーアーマーやバリスティック・ヘルメットを始めとした各種抗弾装備の
充実に伴い、着用者の生存率や部隊士気の大幅な向上が可能となった。
しかし、この世界的趨勢に反して避けようのない新たな問題も生じてくる。
抗弾装具の充実に比例して個人装備の全体重量の増加が顕著な問題となり、さらに構造上密封性と
保温性の高いボディーアーマーの着用は、温度差の著しい極地や季節において過度の体温上昇
を誘発し、肉体的・精神的ストレスの負担、延いては脱水や痙攣、虚脱を始めとした諸症状を伴う
熱中症など、最悪の場合は生命に係わる病理的症状までも併発する危険性がある。
このような過度の体温上昇に伴うストレス環境は、抗弾装備の着用が必須でありながら、通年季節を問わず
事件対処へ出動し、少数精鋭で高度な特殊作戦を敢行する警察SWATや対テロ特殊部隊所属のタクティカル
ユーザーにとって、決して避けては通れない問題である。
高温環境下のヒートストレスに対しては、訓練によってある程度の耐性を備えることができるが、過度の
体温上昇や脱水症状など、高温障害に対する自己のボディーマネジメントには多かれ少なかれ必ず限界があるからだ。
このような過度の体温上昇は、理性的・理知的な状況判断能力や指揮能力などの極端な低下を招き、メンタル状態に大きな悪影響を及ぼす。
また、熱中症などの病理的症状に陥った場合は、意識障害を始めとして身体的行動能力の低下にも大きな影響を及ぼし、
最悪の場合は死に至る場合もある。
特に個々人の密接な戦術的連携が不可分な特殊部隊にとって、高温多湿の環境下で陥りやすい高温障害の発生は、
オペレーションそのものに致命的不和をもたらす死活問題になる可能性が高く、決して看過できない。
これらの熱中症(特に脱水症状)に対する最も基本的な対策は水分と塩分(電解質)の適宜補給である。
古くからミリタリーユースではキャンティーン(水筒)を用いた飲料水の携行が主流であったが、近年では
キャメルバックに代表される背負い式のリザーバータンクと飲料吸引用チューブを組み合わせた最新のハイドレーション
システムが登場しており、戦闘中などのハイリスク環境下でも迅速に水分補給ができることから、ミリタリーユース
のみならず、CQBオペレーションを専門とする警察SWATや対テロ部隊などのタクティカルユーザーにまで幅広く
普及している。
適度な水分補給と併せて、体温上昇を抑制するため畜冷材を用いた冷却用ヒートダウンギアの装着も大変有効であり、
米軍を始めとした先進各国のミリタリーユースでは、クールパックタイプの各種ヒートダウンギアも支給されている。
画像のモデルは欧米メーカー“Exothermal Technology Corporation:ETC”が開発したヒートダウンギアである
“ThermalWear Body Management System:TBMS”(サーマルウェア・ボディ・マネジメント・システム)。
TBMSは付属の特殊蓄冷素材である“HTF:Heat Transfer Formul”クールユニパックを用いたアウタータイプの
体温管理システムであり、極地における活動に伴う過度の体温上昇を強制的に抑制することが可能である。
これは特にモジュラーボディーアーマーを始めとしたアウタータイプの抗弾装備を身体に着用した際における
過度の体温上昇、それに伴う肉体的・精神的ストレスや熱中症を事前に予防する効果がある。
TBMSは付属のHTFクールユニパックとメッシュタイプキャリアーから構成されており、熱伝導性に優れたジェル状の
プラスティック特殊蓄冷素材の内包されたクールユニパック本体を氷水に20〜30分ほど浸すことで冷却素材が完全
に凝固し、それを付属のメッシュタイプキャリアー、ないしはモジュラーボディーアーマーなどに予め装備されている
メッシュポケットに封入携行することで、高温障害を抑制し快適な体温管理を行うことが可能である。
また、付属の冷却素材であるHTFクールユニパックは冷却凝固を繰り返すことで半永久的に使用可能であり、
実機能のみならずコストパフォーマンスにおいても非常に優れている。
さらに、保温性が高いため加熱を行うことで低温環境下における保温剤としての機能も果たすことができるため、
体温上昇に対する冷却効果と体温低下に対する保温効果の両方の用途に用いることが可能だ。
CQBオペレーションを専門とする対テロ部隊や警察SWATにおいてボディーアーマーなどの各種抗弾装具の着用が
必須である以上、高温障害の発生が予想される極端な環境下では、こうした水分補給用のハイドレーションシステムや
ヒートダウンギアなど、各種ボディーマネジメントシステムの装備が求められる。
▲キャメルバック社製のハイドレーションシステム。 1989年に操業され、米国カリフォルニア州ペタルーマに本社を構えるキャメルバック・プロダクツ社は、 背負い式ハイドレーション(水分補給)システムのパイオニア的存在であり、同社の“キャメルバック” という商標は、ハイドレーションシステムの代名詞として世界各国で浸透している。 ハイドレーションシステムは、飲料水を内蔵するリザーバータンクとドリンキングチューブ 、そしてリザーバータンクを収納携帯するバックパックの主に3つのコンポーネントから成る。 画像のモデルは米軍を始めとしたタクティカルユースに好まれるロングネックタイプのリザーバータンクで、 およそ3リットル(100オンス)の各種飲料水を注入可能だ。 目立つカラー部品が多いスポーツ向けモデルとは異なり、タクティカルユース向けモデルは、 リザーバータンクやドリンキングチューブなどが黒を基調とした低視認性カラーで統一されているのが特徴。 また、ミリタリーユースでは必須となるNBC(核・生物・化学兵器)対応ガスマスクの運用にも対応するため、 キャメルバック独自の“HydroLink(ハイドロリンク)”と称されるモジュラーアタッチメントシステムが ドリンキングチューブに備えられており、通常の飲料用バルブからワンタッチでガスマスク接続用アダプターへ換装可能である。 通常時に使用する給水バルブである“Big Bite(ビッグ・バイト)”バルブは、伸縮性のあるゴム製のバルブを 歯でかみ合わせることで、閉じていたバルブが開き、飲用可能になるシステムだ。 この際サイフォンの原理が働くため、ストローを使うときのように飲料水を自ら吸引する必要はなく、 バルブを開放している間は自然と口内に給水される。 なお、ハイドレーションシステムを使用しない場合は、レバー式の給水ロックシステムである “HydroLock(ハイドロ・ロック)”が備えられており、不意の漏水を防ぐ。 元来各種スポーツシーン向けハイドレーションシステムを製造してきたキャメルバック社であるが、 近年では高温環境地域で活動する米軍の地上部隊を始めとしたミリタリーユース、警察SWATを始めとした各種 タクティカルユースの需要増加から、リザーバータンクを内蔵する専用バックパックやタクティカルベストなど のタクティカルギア開発部門を設け、精力的な製品開発を行っている。
被弾による死傷率の高いCQBオペレーションを専門とした警察SWATや対テロ部隊は、
軍隊などの野戦部隊に比べて特に抗弾装具の充実に重きを置く傾向にある。
このなかでボディーアーマーに次いで大きな中核を成す抗弾装具がバリスティックヘルメットだ。
現在のモデルのベースとなった実用的な軍用バリスティックヘルメットは、1980年代の米軍においてPASGT
(地上部隊個人防護システム)ボディーアーマーとセットで支給が開始されたPASGTヘルメットである。
PASGTヘルメットは従来のスチールやジュラルミンなどの合金素材を用いたヘルメットとは異なり、当時最新の
高分子アラミド繊維(デュポン社製ケブラー)を樹脂で固形化(レジン加工)した成型素材を利用している。
このレジン加工を施した帽体に弾丸が命中した際、命中部分が局所的に崩壊することによって弾丸の運動エネルギー
を吸収・伝搬し、弾丸の貫徹を阻止する。
採用当時はPASGTボディーアーマーの運用コンセプトと同じく、榴弾などに対するフラグメンテーション・プロテクティブ(破片防御)の
意味合いが大きく、低初速の拳銃弾程度の貫徹は防げるが高エネルギーをもつ高初速ライフル弾への抗弾能力は殆ど期待できない。
当初、米国の警察SWATなどでは米軍規格準拠のPASGTタイプヘルメットを採用することが多かったが、
CQBオペレーションの重要性が増した1990年代以降は、成型技術や抗弾素材の進化に伴い軽量化や抗弾性能の
向上を図った特殊部隊向けのバリスティックヘルメットが関連メーカーによって開発・製造されるようになった。
2000年代以降、米軍においても従来のPASGTヘルメットに続き、軽量化や抗弾性能の向上、シェルデザインやサスペンションシステムの改良によって、
各種コミュニケーションツールとの併用に優れるMICH(Moduler Integrated Communications Helmet)
やACH(Advanced Combat Helmet)といった次世代の軍用バリスティックヘルメットを世界に先駆けて開発・配備している。
対テロ部隊ではボディーアーマーと同じく、一定の抗弾性能と信頼に足る製造品質をクリアしたモデルを採用する必要がある。
CQBオペレーションにおいて装備する場合、具体的には米国司法省が定めるNIJ規格であれば最低でもレベルIIIA以上をクリアした
モデルで、可能ならば各国のタクティカルユースで一定の採用実績のある製造メーカーブランド
(世界的なブランドロイヤルティーとしてはLBAやMSAなどが代表的)を選ぶべきだ。
また、バリスティックヘルメットのオプションアクセサリーとして、バイザータイプのフェイスシールドも存在する。
バリスティックヘルメット対応のフェイスシールドには、一定の抗弾能力のあるバリスティックモデルと
抗弾能力のないライオットモデルの2種類があり、3mm〜5mm厚程度の耐衝撃性に優れたポリカーボネート樹脂で
形成されるライオットモデルは、主に暴動鎮圧作戦などにおいて飛来する投擲物から顔面を保護するのが役割である。
一方、欧州の対テロ部隊や日本の警察部隊などで好まれる傾向にあるバリスティックフェイスシールドは、
粘弾性の高いポリカーボネート樹脂に加えて、性質の異なるアクリル有機ガラスを20mm〜30mm厚程度に
積層加工することで、飛来する弾丸に対して一定の抗弾能力をもつ。
顔面への被弾のリスク(基本的にヘルメットと同様に高初速ライフル弾は防げない)を極力低減するアドバンテージが
得られるが、殆どのモデルはヘルメットと同程度の重量があるため、重量増加や体積増に伴う機動性の
低下が生じるデメリットも付帯する。
このほか、警察SWATや対テロ部隊ではバリスティックヘルメットとは異なり、一切の抗弾能力のない
クラッシュヘルメットが用いられる場合もある。
クラッシュヘルメットは軽量なプラスチック樹脂などで成型され、元来アイススポーツや各種アウトドアスポーツなど
のスポーツシーンにおいて頭部への耐衝撃緩和を目的に被られているヘルメットで、米国のPRO-TEC(プロテック)ブランドの
モデルなどが昔から有名だ。
一切の抗弾能力が期待できないクラッシュヘルメットだが、バリスティックヘルメットに比べて格段に
軽量で通気性や排水性にも優れるため、高機動性を優先しつつ閉所空間における最低限の頭部保護を
求める船舶臨検部隊、ロープ降下や空挺降下を伴う特殊作戦部隊などに採用されている。
また、例えば警察系特殊部隊の遭遇することの多い刃物で武装した犯人を生きたまま確保する場合など、
あえて抗弾装具を装備する必要がなくCQC(近接格闘)を前提とした状況でもクラッシュヘルメットは
重宝されており、
実際に日本においても警察のSAT(特殊急襲部隊)狙撃部隊やSIT(特殊捜査班)突入班、海上保安庁のSST(特殊警備隊)、
海上自衛隊のSBU(特別警備隊)など、殆どの特殊部隊でクラッシュヘルメットは多用されている。
無論、バリスティックヘルメットでも抗弾能力だけでなく十分な耐衝撃緩和能力は発揮できるが、硬質樹脂という
成型素材の性質から、壁や天井など(特に金属などの硬物)に帽体がぶつかると、クラッシュヘルメットに比較して
石をぶつけたような大きな音が生じるため、隠密行動が原則のステルスエントリーには一定のリスクが伴う。
ヘルメットはボディーアーマーに次ぎ、CQBオペレーションにおける基本的なパーソナルプロテクティブギアの
ひとつだが、敵の攻撃能力や活動環境などの相対状況によっては、バリスティックヘルメットやクラッシュヘルメット
を適宜使い分け、さらに高機動や隠密性を優先する場合などは、ヘルメット自体を装備しないことを想定する必要もある。
▲欧州の大手防弾装具メーカーLBA(Lightweight Body Armour)Internationalグループに属する 米国のRBR Tactical Armor社製F6 COMBAT MKII バリスティック・ヘルメット。 近年、対テロ特殊部隊で用いられるバリスティックヘルメットは、現代戦闘に必須とされる様々な通信機器類 (コミュニケーションシステムツール) との併用を考慮したシェルデザイン、またナイトビジョンゴーグル (暗視装置)や抗弾能力を有するバリスティックフェイスシールドなど、各種重量物を装着しても快適かつ安定した 装着感が得られるインナーシステムやアジャスタブル・ハーネスシステムを備えている。
▲着用者に合わせて微調整が可能な3点支持方式のアジャスタブル・ハーネスシステムを備えたインナーシステム。 チンストラップに装着された大型のチンストカップは柔らかい樹脂性で安定性が高い。 インナーの前頭部及び後頭部付近には、衝撃を吸収するクッションパッドを装備し、頭部へのインパクトストレスを軽減する。 さらに頭頂部には通気性を確保するメッシュ生地が設けられており、長時間の着用でも快適性を損なわないようにデザインされている。
▲米国の大手総合タクティカルギアメーカーであるSAFARILANDグループ経営傘下の防弾装具メーカー“PROTECH TACTICAL”が製造する“702MTバリスティック・フェイスシールド”をヘルメットに装着したタクティカルオペレーター。
同社の主力製品のひとつである702シリーズは、ポリカーボネート樹脂とアクリルガラスの積層構造から成る抗弾シールドを有し、
9x19mmなど通常の拳銃弾のシングルヒット(単発被弾)に対応したモデル“702L”、マルチヒット(複数被弾)対応モデルの“702M”、
7.62x25mmトカレフ弾など貫通力の高い特殊弾薬のマルチヒットに対応した“702MT”の3種類がラインナップされている。
当然ながらシングルヒット対応モデルより、抗弾能力の高いマルチヒット対応モデルの方がシールドが厚く重量もあるが、
シールドは両サイドの固定スクリューの操作によって任意の跳ね上げ角度で保持できる。
この702シリーズ最大の特徴は、独自のクイックデタッチャブル方式のバンド固定システムによって、既存のPASGTデザインのバリスティックヘルメットに無加工で装着できることだ。
さらに専用のロックシステムにより、ヘルメット本体へシールドを強固に固定しながら、危険度の高いハイリスクエントリーなど任務の内容に応じてシールドを迅速に着脱することができる。
従来のバリスティック・フェイスシールドの固定方法は帽体にネジ孔を空ける方式が主流だったが、ヘルメット自体に孔を空けることで僅かながら抗弾能力上の脆弱性を生むデメリットがあった。
702シリーズでは独自のバンド固定システムによって、この問題を解決している。
702シリーズは既存のヘルメットにワンタッチで装着するだけで運用可能な汎用性の高さから、製造が開始された1990年代後半から米国の警察SWATを中心に広く普及し、
ハイリスクエントリーを敢行する各国の対テロ特殊部隊や警察特殊部隊でも数多く採用されている。
我が国においても各都道府県警察の刑事部に所属し、人質立てこもり事件などに対応する特殊犯捜査係(SIT)の突入班や各都道府県警察の警備部機動隊に所属する銃器対策部隊などの警察特殊部隊において、トカレフ弾薬対応の702MTが採用されている。
バリスティック・シールド(防弾盾)は、現代の対テロ特殊部隊や警察SWATの任務に欠くことのできない代表的なパーソナル・プロテクティブ・ギアである。
現代の軍・警察において運用される盾は主に2種類に大別される。
ひとつはジェラルミンなどの軽量な金属や耐久性の高いポリカーボネート樹脂などで製作され、打撃や投擲物などから身を守るライオット・シールドで、
これらは主にライオット・コントロール(群衆整理・暴動鎮圧)オペレーションなどに使用される。
これらのライオット・シールドは耐衝撃性や防刃性には優れるが、通常の拳銃弾に対しては基本的に抗弾能力をもたない
(ポリカーボネート樹脂などは貫通力の低い散弾程度であれば貫徹を防ぐ場合もある)。
もうひとつは、抗弾素材で製作され、銃弾に対して一定の抗弾能力をもつバリスティック・シールドである。
米国の警察SWATなどにおいてはバリスティック・シールドをバンカー(掩体)に例えて、“バンカー・シールド”や“ボディー・バンカー”といった俗称でも知られる。
刀剣による斬撃や刺突、鈍器による打撃、投石や弓矢などの投擲物・飛来物から身を守ることのできる盾は最も原始的な防具のひとつであり、
銃火器が誕生する遥か以前から世界中の戦場で広く用いられてきた。
古来より、盾は木材・皮革・金属などを材料にして様々な種類がつくられた。
紀元前2500年の南メソポタミアでは大盾と槍で武装した歩兵による密集陣形戦術(ファランクス)が既に存在しており、
古代ヨーロッパにおいてはローマ軍団の重装歩兵がスクトゥムと呼ばれる大盾と刀剣で武装し、長きに亘って周辺諸国を蹂躙した。
我が国においても戦国時代の足軽が飛来する火縄銃の弾丸から陣形を守るために竹束(たけたば)と呼ばれる竹で作られた盾を陣地に並べ、防弾用途に用いている。
日清戦争から第2次世界大戦にかけて日本軍では歩兵を小銃弾や砲弾の破片から防護するための防楯(ぼうじゅん)と呼ばれるバリスティック・シールドが積極的に開発・運用された。
特殊鋼板で製作された防楯の多くは個人携行が可能なサイズと重量で、戦闘中の軽機関銃手を敵の小銃弾から防護することが主な目的であった。
突撃戦闘など従来の伝統的な野戦において歩兵の防護に一定の効果を上げた防楯であったが、特殊鋼板で製作された本体は非常に重量があり、携帯性に乏しく、その用途は限定的であった。
国家間の正規軍同士の大規模な戦争が減少し、地域紛争やゲリラ戦などの非対称の戦争が増したベトナム戦争以降、
歩兵の役割が多様化し、機械化や空中機動による高機動性を重視した各国の軍隊において、
運用上のメリットよりデメリットが上回るようになった個人携行用の防弾盾の有用性は希薄になり、必然的に姿を消した(車両や船舶に積載した機関銃用の防楯などは現代でも運用されている)。
しかし、1960年代に誕生したケブラーなどの特殊繊維が防弾装備の進歩に革命をもたらす。
従来の特殊鋼板などの金属に比較し、高分子アラミド繊維は圧倒的に軽量で柔軟性に富み、すぐに歩兵用のボディーアーマーなどの材料に用いられた。
その後もアラミド繊維を樹脂で固形化(レジン加工)して軍用のバリスティック・ヘルメットなどが開発され、技術的に個人携行が可能な軽量で高強度なバリスティック・シールドの製作が可能となった。
軍隊において一度はニーズを失ったバリスティック・シールドであるが、
これらの防弾装備の進化に伴いそのニーズは新たに1970年代に各国で誕生した対テロ特殊部隊や警察SWATなどにおいて高まった。
人質救出作戦など閉所空間における近接戦闘が主要任務となる対テロ特殊部隊は、近距離での銃撃戦を想定して防弾装備の充実に重きを置く傾向があり、
ボディーアーマーやバリスティック・ヘルメットに加え、バリスティック・シールドの採用は必然的なものであった。
現代のバリスティック・シールドは、特に拳銃、サブマシンガン、ライフル、ショットガンなど銃器からの発射体(弾丸)の脅威を覆すように設計されているが、
当然ながら多くはライオット・シールドと同じく刺突や斬撃、石や弓などの投擲物も防ぐことができる。
一般的にバリスティック・シールドは、ケブラーなどのアラミド繊維で製作され、最低でも殆どの拳銃弾の貫徹を防ぐNIJ規格レベル3A以上の抗弾能力を有している製品が殆どである。
定評のあるバリスティック・シールド製造メーカーは、政府機関が定める特定の防護レベルに従ってバリスティック・シールドを設計・製造している。
これらは米国司法省の装備調達基準として国立司法省研究所(NIJ:National Institute of Justice)が定めた防弾材料のテストプロトコル(Ballistic materials test protocol NIJ-Std-0108.01)
が最も標準的に用いられ、独立した抗弾素材に対して脅威となる発射体(弾丸)を撃ち込む破壊テストを行い、製品が適切な設計と能力を有するか評価する。
個人携行を前提としたハンドキャリー・バリスティック・シールドには、背面に把持用のキャリングハンドルが設けられており、このクラスの製品であれば片手でも持ち運びが容易だ。
この他にも折り畳みができる柔軟なソフトアーマーで製作され、携帯性に優れたブランケットタイプのバリスティック・シールドも普及している。
多くのハンドキャリー・バリスティック・シールドは、銃口初速の高速なセンター・ファイアー・ライフル弾の貫徹を防ぐ能力を有していない。
高威力のライフル弾への抗弾能力を有する製品(NIJ規格レベル3以上)は、アーマーパネル本体の重量があり、長時間の個人携行は難しいため、
移動用のキャスターや簡易設置用のキックスタンドが装備されていたり、複数のバリスティック・シールドを連結させる機能を有する製品が多い。
これら現代のバリスティック・シールドは任務成功の可能性を向上させるため、防護レベル、機動性、視認性、武器の運用性・統合性(射撃精度の向上を含む)などを重視して設計され、
前方視認用のバリスティック・ウィンドウや銃撃用のガンポート、高出力のタクティカルライトシステム、運搬用のキャリングストラップなど様々なオプションが装備されている。
対テロ特殊部隊などにおいては主に突入部隊の先頭に立ち、被弾の確率が高いポイントマン(シールドマン)がバリスティック・シールドを携行する。
シールドマンは片手でバリスティック・シールドを保持し、片手には拳銃を構えることで身を守りながら敵に攻撃を加えることもできる。
なお、両手にシールドと拳銃を保持したシールドマンは、戦闘中は基本的に拳銃の弾倉交換ができないため、バックアップ用の拳銃を複数携帯する場合が多く、
戦闘中に射撃を継続する必要がるときは弾倉交換をせずに、速やかにバックアップガンに持ち替える(所属する部隊の通常作戦規定によっては方法が異なる)。
また、爆薬を使用したドアブリーチなどでは発破の際には、先頭のシールドマンはバリスティック・シールドに身を隠して爆風と飛散物から後続の部隊を防護する。
同時に、手榴弾などの爆発物を投げつけられた際にも掩体となるバリスティック・シールドは有効に活用できる。
個人が携行するハンドキャリー・バリスティック・シールドは、現代のタクティカルオペレーターの任務遂行において、
敵の攻撃から身体を防護し、生存性を向上させる重要な資機材である。
現在、バリスティック・シールドは用途や価格などに応じて、サイズ別、抗弾性能別に様々な種類の製品が各国の防弾装備メーカーからラインナップされており、
我が国を含む世界各国のタクティカルユースで運用されている。
▲米国の大手総合タクティカルギアメーカーであるSAFARILAND(サファリランド)グループ経営傘下の防弾装具メーカー“PROTECH TACTICAL(プロテック・タクティカル)”社製のパーソナル・バリスティック・シールド。 個人携行用のバリスティック・シールドとしては最も標準的なサイズと仕様を有するスタンダードモデルで、視認性の高い大型の抗弾ガラス製バリスティック・ウィンドウとキャリングハンドル、 ハンズフリーで運搬できる専用スリングを装備している。 シールドサイズは幅580mm、高さ920mmで、本体重量は約9.5kg。片手でも比較的容易に携行できる。 抗弾能力はシールド及びウィンドウ共にNIJ規格レベル3Aで、アーマーピアッシング(徹甲弾)などの特殊弾薬を除いて、 サブマシンガンなどで使用されるハイベロシティー(高初速)の9x19mmパラベラム弾や.44マグナム弾を含む大抵の拳銃弾に対する防護能力を有し、 米国の警察SWATや米軍各憲兵隊(MP)所属の特別対応班(SRT)をはじめとした各国の軍・警察・法執行関係機関などのタクティカルユースにおいて幅広く使用されている。
▲英国に製造拠点を有する防弾装備メーカー“Lightweight Body Armour(ライトウェイト・ボディー・アーマー):LBA”社製のフラット・プロテクティブ・シールド“L10-S-MINI SHIELD(ミニ・シールド)”を構えるタクティカルオペレーター。 1976年に英国で創業されたLBAは世界60カ国以上に営業支店を有し、米国のFBI(連邦捜査局)やCIA(中央情報局)を含む世界120カ国以上の軍・警察・法執行関係機関などに高性能な防弾装備を輸出している国際企業である。 このミニ・シールドは主に片手で扱うCQBオペレーション向けの小型軽量モデルで、上半身サイズを覆いながら最低限のバイタルゾーンを防護することができる。 片手でも長時間構えられるようにLBA独自の“PK Tetramid”と呼ばれる最新のアラミド繊維系の抗弾素材で製作され、本体の重量は約3.2kgと非常に軽量だ。 シールドサイズは幅560mm・高さ510mmで、抗弾能力は拳銃弾に対応したバリスティック・シールドとしては標準的なNIJ規格レベル3A。 航空機や船舶など狭小空間でも操作性が高く、本体が非常に軽量なため、長時間の携行でも負担が少ないのが最大の特徴である。 バリスティック・シールド本体は難燃性繊維であるノーメックス製カバーで保護されており、カバーの正面部分にはパイルアンドフック(面ファスナー)のループ面が取り付けられているため、 “POLICE”や“SWAT”といった任意のIDパッチを装着・顕示することができる。
▲通常、バリスティック・シールドはケブラーなどの高分子アラミド繊維で製作されているのが一般的だが、前方の視認性を優先した透明型の製品も存在する。 基本的にはヘルメット専用のバリスティック・フェイスシールドと同じ構造で、 粘弾性の高いポリカーボネート樹脂に加えて、 性質の異なるアクリル有機ガラスを20mm〜30mm厚程度に積層加工することで、飛来する弾丸に対して一定の抗弾能力を有する。 透明型の製品は主にポリカーボネート樹脂を主原料にする抗弾能力をもたない暴動鎮圧用のライオット・シールドに用いられることが多いが、 技術的には大盾サイズの透明型バリスティック・シールドも製造可能である。 しかし、現在主流の軽量なアラミド繊維系のバリスティック・シールドに比べて重量があり、機動性の面で実用性に欠けることから、 透明型バリスティック・シールドは片手で扱える小盾サイズの普及に止まっている。 画像の小盾サイズのバリスティック・シールドは殆どの拳銃弾の貫徹を防ぐNIJ規格レベル3Aの抗弾能力を有するが、このサイズでも重量は約3.6kgもあり、 同サイズのアラミド繊維系バリスティック・シールドに比較しても圧倒的に重い。 小盾サイズの透明型バリスティック・シールドは、航空機や船舶、日本の住宅のような極端に狭い空間でも前方の視認性を確保しながら、 最低限のバイタルゾーンを防護でき、さらに操作性に優れることから目標の制圧時には非致死性武器としても使用できる点が最大の特徴である。 活動環境の面から、これらのメリットを享受しやすい我が国では、各都道府県警察の警備部に所属する特殊急襲部隊(SAT)や刑事部所属の特殊犯捜査係(SIT)の突入班などにおいて、 小盾サイズの透明型バリスティック・シールドの使用が確認されている。 特に実弾を使用したSATの公開訓練においては、人質救出作戦において突入班の隊員の殆どが透明型バリスティック・シールドと拳銃を片手で保持しながら精確な制圧射撃を実施し、 平素から積極的に透明型バリスティック・シールドの運用を戦術に取り入れ、訓練を行っていることが判明した。 このような透明型バリスティック・シールドの積極的な運用は、欧米の対テロ特殊部隊や警察SWATでは比較的珍しく、日本の警察特殊部隊の活動環境に適合した独自の装備ともいえる。
アサルトスーツやフェイスマスクに並び、タクティカルグローブは対テロ部隊における最も基本的
な身体防護装備である。
先述したが、ダイナミックエントリーを伴うCQBオペレーションでは戸口の破壊に爆薬を用いたり、部屋の突入ごとに
スタングレネードを使用するため、閉所空間では爆圧で窓ガラスや蛍光灯が割れ鋭利なガラス断片が飛散する危険性が高い。
また、少量といっても爆薬の燃焼温度は非常に高温であり、小火器から生じるマズルフラッシュ(発砲火炎)の
発射ガスや排出された薬莢なども高温で火傷の危険性がある。
これらの様々な危険から素手を保護するのがタクティカルグローブだ。
タクティカルグローブは素手の保護という第一義を有しながら、銃器による攻撃がメインであるCQBという環境下
においては、極力素手に近い繊細なトリガーフィーリングやガンハンドリングに支障をきたさない快適性が得られる
デザインであることも求められる。
また、例えば警察系特殊部隊が遭遇することの多い刃物で武装した犯人を確保するなど、犯人の制圧に銃器を使用しない
CQC(近接格闘)を前提とした作戦では、耐切創性に優れるケブラー繊維で縫製された防刃グローブなども用いられる。
CQBを前提とした対テロ部隊ではアサルトスーツと同じく難燃性に優れた薄手のノーメックス素材で縫製されたもの
や皮革でつくられた堅牢なグローブなどが好まれる。
従来は対テロ部隊の要求を満たした既存製品が用いられていたが、近年では各種タクティカルギアメーカーが
独自に開発したCQB任務に特化した専用デザインのモデルも多数登場している。
このほか対テロ部隊ではラペリングやファストロープなどのロープ降下が必須であるため、ロープ降下の摩擦熱に
耐えられる革製の専用のグローブも用いられる(ただし近年ではCQB向けタクティカルグローブと兼用できるモデルも多い)。
画像のモデルは米国の大手プロテクトギアメーカー“HATCH(ハッチ)”社製 の“オペレーターグローブ”。
オペレーターグローブはHATCHが製造する代表的なタクティカルグローブシリーズのひとつであり、屋内や市街地など
閉所空間における近接戦闘(CQB)を主要な任務とし、死の危険に直面する機会の多いSWATの要望に応えて新開発
されたアサルトミッション(強襲作戦)用グローブだ。
一般的なグローブよりも延長された手首部分は突入時に飛散するガラス断片など袖口からの異物侵入を防ぎ、
レザー(皮革)を用いた一般的なグローブに比較し、2倍以上の耐切創性を誇るアラミド繊維ケブラーを採用した
本体は、ガラス断片などの鋭利物に対して4度のカットテスト耐えるほか、摂氏427度の高温に耐える耐燃性を有している。
また、耐摩擦性と防刃性に優れるカンガルーの皮革を採用したパーム(掌)部分には、特殊な滑り止め加工である
“Posi-Grip”が施され、武器や道具の使用に際して手の動きを妨げない。
さらに、ライフルやハンドガンなどのグリップ基部が当たる部分は厚手のレザーで補強され、ナックル部分にも
クッションパッド入りレザーが施されているほか、グローブ着用時には得られない微妙なトリガーフィーリングを
要求するユーザーのために、人差し指部分は任意にカットしても解れないステッチ加工の施されたカットリング
が備わっている。
これらCQBに対応した必要機能を備えるオペレーターグローブは、爆発時に高温を発するスタングレネード、
戸口破壊に用いる高性能プラスチック爆薬などを使用するルームエントリー(屋内突入)作戦おいて、理想的
なタクティカルグローブとしての性能を有している。
現在、オペレーターグローブは米国SWATを始めとして世界各国の軍・警察・PMC(民間軍事会社)所属の
各種タクティカルユーザーに使用されている。
対テロ特殊部隊に限らず、一般のミリタリーユースでも脚部(足)を保護するフットウェアの着用は必須である。
近代文明軍隊におけるフットフェアの代表格としてミリタリーブーツが挙げらる。
通常、不整地などでの行動を前提とした軍隊では不意の怪我の防止、泥水や虫、ヒルなどの異物浸入を防ぐため、
足首上部まで保護したデザインのミリタリーブーツの使用が一般的であり、素材にはレザー(皮革)やナイロン、
ゴムなどが常套的に用いられ、場合によっては踏み抜き防止を加味してアルミニウムなどの軽量な特殊鋼材を
靴底に用いる。
元来、ミリタリーブーツは全軍に大量配給する需要・減耗品であったことから、フットフェアとして最低限の機能
を満たした物品が大量生産される傾向にあり、競争原理の著しい高品質な民生品シューズなどと比較すると履き
心地や各種機能面において見劣りする点も多々見受けられた。
しかし、既存のシューズメーカーに加え、軍・警察・特殊部隊などに所属する各種タクティカルユーザーを対象
とした個人装備、製品開発を行う新興タクティカルギアメーカーが1990年代以降、米国を中心に相次いで登場し、
従来の個人装備に対して“より実戦に即する戦術的発展性”を加味した個人装備が開発・使用されるようになった。
この基本コンセプトの下、弾薬や必要装備を携行するタクティカルベスト、マガジンポーチ、各種バッグ、
拳銃を携行するホルスターなど、現代における戦闘員の必携装具が次々に開発・販売されていった。
そして当然の如く、戦闘員が着用する代表的フットウェアであるミリタリーブーツにも技術革新に伴って
誕生した新素材の採用や、エルゴノミクス(人間工学)に即した基本設計技術の導入を始めとした発展的な
改良が施され、従来の一般的ミリタリーブーツを遥かに上回る着用時の快適性、軽量化、通気・防水性、
オイルレジストなど耐薬品性向上の実現に成功した。
また、従来重視されてこなかった靴底に施されるソールパターンの科学的研究も積極的に行われ、現代戦闘
において戦闘員が遭遇し得る如何なる状況下であっても適度なグリップ力を発揮し、安定した機動性や静粛性
の確保が可能な優れた性能を有するブーツの開発も進んでいる。
このように、従来の“重く”“固い”設計が一般的なミリタリーブーツの欠点を補い、現代戦闘の趨勢を
加味したブーツは、“戦術の一端を担う個人装備”という新たなコンセプトから
“タクティカルブーツ:Tactical Boots”の名称で製造販売メーカーによる差別化が図られている。
現在では多くの各種タクティカルユーザーが実戦におけるタクティカルブーツの有用性を認識しており、
着用環境や目的などに対応したモデルを適宜選択・使用している。
特に迅速な機動性が成功の鍵となる対テロ作戦任務においては、着用者に負担をかけないように可能な限り軽量で
あり、コンクリートや木造床・金属板などの人工物上でもソールが滑ることなく最適なグリップ性能を発揮する
最高級モデルが好まれる。
対テロ部隊の主要任務である人質救出作戦では基本的に犯人と人質の区別はせず、武装・非武装を問わず
空間にいる全ての人間を脅威と見なす。
目に見える武装をした犯人の制圧後であっても、複数犯による犯行であれば人質の中に武器を隠し持った
仲間の犯人が紛れ込んでいる可能性が十分にあり得るからだ。
よって犯人制圧後は、犯人と人質の両者全員に速やかに手錠を掛け、素性が明らかになるまで拘束する必要がある。
この短期間の限定的な拘束に用いられる手錠が樹脂製の簡易手錠である。
樹脂製の軟質素材のためナイロンカフ、プラスチックカフ、フレックスカフなど様々な名称で呼ばれる。
また本来は結束バンドの商標であるタイラップの名称で呼ばれることも多い。
本来犯人の拘束には一般的な金属製の手錠を用いるが、拘束対象が複数存在する人質救出作戦や暴動鎮圧作戦など
では、重くかさばり携行数の限定される金属製の手錠は適さない。
ナイロンでつくられた樹脂製の簡易手錠は素材が軽く、複数の携行が可能であり使い捨てながら単価が安いため、
このような任務では一時的な拘束手段として、軍・警察を問わず多様される。
さらに、再利用を前提とした金属製手錠は、拘束対象者が外傷を負い出血している場合などに使用すると、再利用時に
HIVやB/C型肝炎を始めとしたウイルス性病原体の血液感染を誘発する可能性がある。よって短時間に不特定多数の人間を一斉拘束する暴動鎮圧作戦などに
おいては、衛生学の観点からも使い捨てを前提とした樹脂製の簡易手錠の使用が推奨される。
樹脂製手錠は複数携行することから、画像のようにカラビナなどにまとめたり、結束前の帯状の状態でベストの
専用ポケットやウェビングテープなどを利用して携行することが多い。
また、あらかじめ手錠を結束した状態で二の腕に通しておき、犯人の拘束時に手錠を保持した腕で
犯人の手首を押さえながら、そのまま手錠を下ろして拘束する場合もある。
元々は電気配線などを束ねる樹脂製の結束バンドが原型だが、現在では軍・警察向けとして人間の拘束用に
強度を増したものや手錠そのもののデザインに類似した専用製品が販売されている。
これらの簡易手錠は基本的に使い捨てで一度締めたら逆行防止のロックが掛かり、拘束を解く際はナイフや
ハサミなどの刃物で切断する。
ただし裏を返せば刃物があれば簡単に拘束を解除できるということでもあり、樹脂製手錠はあくまで
金属製手錠を掛けるまでの一時的な簡易拘束具であることを認識しておく必要がある。
プライマリーウェポンとはタクティカルユーザー自身が戦闘においてメインとして運用する主要武器である。
小火器に限ればメインアームとも呼ぶ。
戦闘においてプライマリーウェポンとして運用される武器は相対関係に応じて多種多様に存在するが、
こと警察SWATや対テロ部隊などCQBを得意とする特殊部隊に限っては、画像にある欧州ドイツのH&K
(ヘッケラー&コッホ)社製MP5サブマシンガン(“Submachine gun”以下略して“SMG”)
の採用が世界的に見ても圧倒的であり、対テロ部隊の標準武装といっても過言ではない。
そもそもMP5 SMGシリーズ自体が1970年代から本格的な活動を開始した欧州の対テロ部隊と共に
研磨され進化発展してきた経緯があり、その存在自体が対テロ部隊が専門とするCQBオペレーションに
特化した存在である。
拳銃弾に準拠したSMGは有効射程が短く威力も低いため、アサルトライフルが普及した戦後は
軍用としての有用性は希薄になった。
しかし、軍用としてのSMGの欠点は警察SWATや対テロ部隊にとっては大きな利点ともなったのである。
射程が限られ威力の低いSMGは、ライフル弾に比べ貫徹力が低く跳弾も抑えられるため、一般市民
や人質が存在する市街地や屋内・航空機内など、保護すべき対象が伴う作戦では大変重宝するのだ。
加えてアサルトライフルよりも小型軽量なSMGは、取り回しと操作性に優れCQBオペレーションに
最適であった。
軍用アサルトライフルに用いられる比較的高度なローラー・ロッキング・システムを採用したことにより、
従来のSMGとは一線を画する優れた命中精度を実現したうえ、
エルゴノミクス(人間工学)を考慮した秀逸たる基本デザインによって、現代の特殊作戦に不可分な
閉所空間におけるCQBに適した操作性と携帯性、また現在では当たり前となったフラッシュライトや
レーザーサイト、光学照準器を始めとした各種オプション・デバイスの併用に対応する戦術的発展性
の高さを両立した H&K社製MP5 SMGシリーズは、世界各国の警察SWATや軍・準軍事組織に
所属する対テロ特殊部隊などに相次いで制式採用され、少数精鋭で特殊作戦
に従事する特殊部隊のスタンダードプライマリーウェポンとして磐石の地位を築いている。
現在、フレーム本体やショルダーストックなどの基本コンポーネントはそのままに、秘匿性に優れた
小型軽量モデルや高性能の大型サウンドサプレッサー(銃声抑制器)を標準装備した特殊モデル、
さらに使用弾薬の口径や連射機能の組み合わせ、生産国や生産時期の相違などにより、MP5 SMG
には延べ100種類を超える多数の派生・発展改良型が存在しており、状況に応じて様々な作戦任務に
対応できる汎用性の高さもMP5 SMGシリーズが支持を受ける理由のひとつでもある。
しかし、昨今は高性能ボディーアーマーの着用など、テロリストや凶悪犯罪者が重武装化する傾向にあり、
従来特殊部隊で用いられてきたMP5 SMGに準拠する 9o拳銃弾(9mm×19)の脆弱性が方々から指摘され、
米軍採用のM4シリーズを始めとした軍用小口径アサルトライフルで使用される長射程・高威力の
5.56mmライフル弾(5.56mm×45)に取って代わられる傾向にある。
この趨勢に従い各国の大手銃器メーカーも1990年代以降から警察SWATや対テロ部隊向けのCQBウェポンの
製造販売に積極的に着手するようになった。MP5の世界的普及に成功したH&K社も甘んじることなく軍用ライフル
のG36シリーズを特殊部隊向けに小型化したコンパクトモデル、M4カービンのオリジナル発展改良モデルであるHK416シリーズ、
さらにMP7など本来軍用のPDW(個人用自衛火器)として開発したモデルを貫徹能力に優れた小口径特殊弾薬の利点を
生かして特殊部隊向けに売り込みを行うようになった。
民生モデルといえども一般市民が軍用ライフル弾を用いるオートマチックライフルを所持していることの多い米国では、
現在殆どの警察SWATで5.56mmライフル弾に準拠したオートマチックライフルをプライマリーウェポンに採用しており、
MP5などのSMGの出番は限られるようになった。
欧州の対テロ部隊でもCQB向けオートマチックライフルは標準武装になりつつあり、多くの部隊がM4(AR15)シリーズや
G36シリーズ、またMP7やP90など新コンセプトの特殊モデルをプライマリーウェポンに採用しており、かつて
対テロ部隊の代名詞であったMP5も時代の趨勢に従って第一線から退きつつあるのが現状である。
しかし、長年にわたる対テロ作戦で培われたMP5の利便性や汎用性の良さは現在でも高く評価されており、
新機種を採用した部隊でも未だに多くが多目的用のサブガンとしてMP5を運用し続けている。
特に大型の内蔵式サウンドサプレッサーが標準装備で高い静粛性を誇るMP5SDモデルなどは、現在でも特殊作戦
におけるニーズが高く、軍・警察を問わず多くの特殊部隊で重宝されている。
第一線の対テロ部隊からは退きつつあるといっても、凶悪な銃器犯罪が少ない日本を始め、軍用オートマチック
ライフルがオーバーキル(過剰殺傷能力)として認識される各国の治安維持組織では、MP5 SMGが上級のプライマリー
ウェポンとして採用されている。
我が国日本も各都道府県警察所属の銃器対策部隊やSIT(特殊捜査班)の突入班、対テロ部隊のSAT(特殊急襲部隊)などで
MP5 SMGがプライマリーウェポンとして制式採用されている。
なお、CQBオペレーションにおいて運用する携行火器には、昼夜を問わず最低限のオプションデバイスとして大光量フラッシュライト
(タクティカルウェポンライト)を装備する。
これは例え日中であったとしても建物や船舶・航空機内などの閉所空間には必ずロウ・ライト・コンディション
(低光度条件下)が存在するからである。
軍・警察を問わずタクティカルウェポンライトは信頼性が高く世界的に大きな販売シェアを誇る
米国SUREFIRE(シュアファイア)社製のモデルが好まれる。
画像のMP5A4(固定式ショルダーストック仕様)SMGに装着しているのはハンドガードとライトユニットが一体となったSUREFIRE社製の
MP5専用ライトM628であり、CT/CQBオペレーションを想定して運用されるMP5 SMGの最もスタンダードなセットアップスタイルである。
また、昨今のトレンドでありオプションデバイスの拡張性に優れたレイルシステムを装備したMP5A5 SMGに装着している
のは同じくSUREFIRE社製のフォアグリップ兼用タイプM900Aウェポンライトである。
▲対テロ特殊部隊で採用されることの多いMP5A5(伸縮式ショルダーストック仕様)SMGのスタンダードな オプション・デバイスのセットアップ例。SUREFIRE社製M628タクティカルウェポンライトと 同じくSUREFIRE社製L72可視光レーザーサイトモジュール、B&T社製ロープロフィール仕様マウントベースに EOTech社製モデル551 HWS(ホログラフィック・ウェポン・サイト) を搭載している。また、専用クランプにより30連マガジン2本を連結することで、素早いマガジンチェンジを 容易にし、計60発の瞬間火力を確保している。 生まれながらの特殊部隊向けプライマリーウェポンであるMP5 SMGの強みは、何と言っても周辺アクセサリーや オプション・デバイスの充実度と運用性の高さにあった。 近年主流のピカティニー規格20mmレールによるモジュラー・ウェポン・システムが普及する遥か以前から、ハンドガード内蔵型 のウェポンライトやレーザーサイトなどの各種CQBオペレーション向けデバイス、スコープやダットサイトなどの各種光学照準器、 3ラグ・マズル・アタッチメントにより着脱が容易な専用サウンド・サプレッサー(銃声抑制器)など、 主に各国のサードパーティーメーカーにより様々なオプション・デバイスが普及した。 これらの豊富なオプション・デバイスにより、MP5 SMGは対テロ特殊部隊や警察SWATの要求に応じたオプション・デバイスのセットアップが大変容易で あった。先述したモジュラー・ウェポン・システムの普及により、各種オプション・デバイスの運用が当たり前になった 2000年代以降は、取り立てて特筆すべき戦術的優越性ではなくなったが、アフターパーツの豊富さなどから システム・ウェポンとして完成し尽くされたMP5 SMGの世界的需要は未だに根強い。 対テロ特殊部隊や警察SWATの標準武装の一機種という盤石の地位は、MP5 SMGの開発から半世紀近くが経過した 21世紀を迎えてもなお、当分の間は完全に失われることはないだろう。
▲最新のモジュラー・ウェポン・システムを搭載したMP5A5 SMG。前方フロント部分の左右側面と下面の3面に 各種オプション・デバイス取り付け用の汎用レールが備え付けられている。 既存のMP5 SMGのハンドガード部分と換装するだけで容易にアップグレードが可能なため、近年の対テロ特殊部隊 や警察SWATなどでよく見受けられるようになったセットアップである。 ピカティニー規格の20mmレールシステムに対応したウェポンライトやレーザーサイトであれば、 既存の殆どのオプション・デバイスが装着可能で、画像のように米軍のM4カービンシリーズなどに使用される ライフル向けの大出力の大型ウェポンライトなども支障なく運用できるようになった。
▲対テロ特殊部隊や警察SWATが担うCQBオペレーション任務において、主に部隊の前線に立つポイントマン向けに配備されることの多いMP5KA4 PDW サブマシンガン。MP5 SMGシリーズの最小・最軽量モデルであるMP5KA4(通称:クルツ)に、 折畳み式のショルダーストックを装備したミリタリーユース向けのPDW(Personal Defence Weapon:個人用自衛兵器)仕様である。 本来は航空機搭乗員の緊急脱出時などにおける軍用のサバイバル・ウェポンとして開発されたPDWだが、小型軽量の本体で操作性や携帯性 に優れるため、対テロ特殊部隊や警察SWATのポイントマンのほか、K-9(警察犬)ハンドラーや要人警護任務など、 各種タクティカル・オペレーターに使用される場合が多い。 我が国でも誘拐事件や人質立て篭もり事件などに対処する警視庁SIT(特殊捜査班)の突入部隊が、 大光量フラッシュライトを装着したSF(シングル・ファイア:単発仕様)モデルのMP5Kを採用しているのが確認されている。
▲固定ショルダーストックの装備されたMP5SD2 SMGを構えるオペレーター。サイレント・サブマシンガンの代名詞であるMP5SDシリーズは、
大型のインテグラル(内蔵)方式サウンド・サプレッサー(銃声抑制器)を標準装備した特殊作戦向けモデルである。
サプレッサーは暗殺や敵地への秘密潜入など、サイレント・オペレーションを前提とした伝統的な特殊工作に用いられるばかりではない。
人質救出作戦や対テロ作戦など、現代の特殊作戦においてもサプレッサーの効果的な運用は不可欠なものである。
人質救出作戦においてはサプレッサーを使用することで、突入時の銃撃位置を欺瞞したり、銃声に不慣れな人質をパニックに陥れない効果が期待できる。
また、ナイト・ビジョン・デバイス(暗視装置)を使用した低光度条件下における戦闘(LLB:ロウ・ライト・バトル)では、
サプレッサーを併用することによって通常の発砲で生ずるマズルフラッシュ(銃口火炎)を抑制することができ、戦術的優越性が向上する。
マズルフラッシュを抑制できることから、可燃性ガスが存在する麻薬製造工場などの摘発でも使用されることがある。
さらに、特殊な使用例として警察SWATなどに随伴する米国のK9(警察犬)ハンドラーなどは、銃声など大音量のハザードノイズ自体が犬の聴覚に大きな負担を掛けることから、
作戦内容に関係なくプライマリーウェポンには常時サプレッサーを装着している場合が多い。
これら特殊作戦を敢行する特殊部隊のニーズに応えて誕生したのが、このMP5SDシリーズだ。
MP5SDシリーズの最大の特徴は、サプレッサー対応のサブソニック(亜音速)弾薬を使用しなくても高い減音効果を発揮する点である。
MP5SDシリーズにはハンドガード部分にまで及ぶ大型のサプレッサーが内蔵されており、銃身の大半がサプレッサーで覆われている。
ハンドガード部分にあたるサプレッサーの前半段階には、マズルに複数のガスポートが設けられており、サプレッサー内で発射ガスを分散することで、弾丸の初速を低下させる。
サプレッサーの後半段階は一般的なマズル方式サプレッサーと同じ構造で、サプレッサーに内蔵されたバッフルとチャンバーによって発射ガスを分散・低減する。
この2段階を経ることで、弾丸はサプレッサーから射出されるときには亜音速まで低下しているため、銃声の大きな要因のひとつであるソニックブームの発生を防ぐことができる。
ただし、銃身にガスポートを設けた分、実質的な銃身長はスタンダードモデルのMP5より短縮されており、さらに発射ガスを低減していることから、
弾丸の初速は通常弾薬に比べて20%近く低下しているため、必然的に弾丸の威力は通常のMP5シリーズに比べて低下している。
このようなインテグラル方式サプレッサーを搭載したサイレントSMGは、高い減音効果を発揮する反面、サプレッサーの着脱が容易なマズル方式サプレッサーに比べて、
その使用用途が限られ汎用性がなくなることに加え、スタンダードモデルよりもメンテナンスにも手間が掛かることから、
その需要は少なく世界でも長期間量産されている実用機種はMP5SDシリーズだけと言っても差し支えない。
まさにMP5SDシリーズは、各国の対テロ特殊部隊や警察SWATなどの限られたタクティカルユースの強いニーズに応えた特殊作戦向けサイレントSMGなのである。
▲伸縮式ショルダーストックと3バースト(3点連射)トリガーグループを搭載したMP5SD6 SMGを構えるオペレーター。 携帯性と隠密性に優れたMP5SD6 SMGは、対テロ特殊部隊における需要が特に高いモデルである。
▲ドイツのH&K(ヘッケラー&コッホ)社製G36Cは、軍用自動小銃であるG36アサルトライフル・シリーズを
特殊部隊向けに短縮軽量化したコンパクトモデルである。
ベースとなったG36アサルトライフルは、旧西ドイツ軍の制式採用小銃であった7.62mX51弾薬準拠のH&K社製G3
アサルトライフルの後継機種として、東西冷戦終結後の1996年に現ドイツ連邦軍に制式採用された5.56mmX45
小口径高速弾準拠の次世代軍用アサルトライフルである。
G36の最大の特徴は、レシーバー本体に加え特徴的な折り畳み式ショルダーストックや半透明マガジンなど、
機関部を除く外装の構成部品の殆どが、生産性が高く耐久性に優れた各種シンセティック素材
(主にファイバー強化ポリマー樹脂)で構成されている点だ。
また、合成樹脂製部品を多用した先進的な外装設計の一方で、作動機構には従来同社がG3やHK33などの看板
アサルトライフルで得意としてきたローラー・ロッキング閉鎖方式の採用をやめ、日本の89式5.56mm小銃などと
同じくコンベンショナル・アサルトライフルとしては最もスタンダードなガス・オペレーテッド方式の
ロテイティング・ボルトによる閉鎖機構を採用している。
これはローラー・ロッキング閉鎖方式がガス・オペレーテッド方式に比べて、ガス・シリンダーやガス・ピストン
などの部品を使用しない分、本体を小型化できるメリットがある一方で、機関部の構造が複雑になり、過酷な戦場
での耐久性や製造コストの面でデメリットを勘案した結果である。
結果としてこの冒険心を抑えたシンプルな設計は成功を収めた。合成樹脂製部品を多用したことにより生産性や耐久性、メンテナンス性は向上し、また信頼性の
高いガス・オペレーテッド方式の機関部を採用したことで、砂漠や泥中など現代の軍用アサルトライフルに要求される
過酷な環境下においても申し分ない作動安定性を発揮した。
1996年のドイツ連邦軍での制式採用後、このG36をベースに銃身長の短縮と軽量化を図ったり、ドラムマガジンの
運用を前提とした分隊支援火器仕様など、旧来のG3シリーズなどと同じく基幹部品の共通化を図ったシステム・ウェポン
として幅広いバリエーション展開が成され、欧州各国軍を始めとして世界各国の軍・準軍事組織・警察機関向けに輸出されている。
なかでも特殊部隊向けに開発されたG36C(Compact)はシリーズ中、最短最軽量のコンパクトボディを有し、
各国の警察SWATや対テロ部隊でも数多くの採用実績がある。
一般的なソフトアーマータイプの抗弾装具を無力化できる長射程かつ高威力の5.56mmX45小口径高速弾に準拠しながら、
フルサイズのMP5サブマシンガンとほぼ同等の重量とサイズを有するため、通常の軍用カービンモデルよりもCQB
オペレーションにおける適応性が高いためである。
また、本体上面のキャリングハンドルにはダットサイトなどの光学照準器とナイトビジョン(暗視装置)のタンデム運用
を考慮したロングタイプの20mm規格ピカティニーレールが標準装備されており、さらにハンドガード
側面と下面の3個所にもレールを標準装備しているため、ウェポンライトやレーザーサイトなどのCQBオペレーション向け
各種オプションデバイスの運用も容易である(近年ではアップグレードパーツとしてG36シリーズ向けのモジュラー・ウェポン・システム
も販売され、さらに発展拡張性が高まっている)。
信頼性に優れた独自の人工樹脂製半透明マガジン(装弾数30発)は、射手から一見して残弾の確認が容易なうえ、クリップなど
の専用器具なしで複数のマガジンを連結保持可能な設計となっている。
ボルト・グループに直結したチャージング・ハンドルやボルト・リリースレバー、セーフティー兼用の
ファイヤー・コントロールレバーなど、操作系は全て左右対称のシンメトリーデザインを採用しており、右利き
左利きの射手を選ばず、CQBテクテックで必須のスイッチング動作にも対応している点もCQBオペレーターなどに
好まれる理由である。
特にグリップアングルやピクトグラム図案表示のファイヤー・コントロールレバーなど、全体の基本デザインは同社の
ベストセラーモデルである
MP5サブマシンガンの操作性を踏襲しており、MP5との併用や後継機種として導入に抵抗が少なく、既にMP5を採用していた
対テロ部隊や警察SWATでの採用が数多く見受けられる。
▲対テロ特殊部隊で好まれる伸縮式ショルダーストックを装備したMP5A5(左)と折畳み式ショルダーストックを 装備したG36C(右)。G36シリーズは、グリップアングルやピクトグラム図案表示のファイヤー・コントロールレバー など、全体の基本デザインは従来のMP5シリーズおよびUMPシリーズを踏襲しており、新規採用でも違和感は少ない。 特に特殊部隊向け最小コンパクトモデルであるG36Cは、スタンダードモデルであるMP5A5と ほぼ同等の全長と重量ながら、MP5 SMGで使用される9mmX19拳銃弾より、圧倒的に高威力かつ長射程な5.56mmX45 小口径高速弾に準拠している。 近年、オートマチックライフルや抗弾装具をもつ重武装のテロリストを相手とする状況では、元来対テロ特殊部隊の プライマリーウェポンであるMP5 SMGでは、射程や抗弾装具に対する貫通力の面で力不足となった。 G36Cは軽量かつ高強度のエンジニアリングプラスチックをフレームや機関部などに積極的に多用することで、 高威力のライフル弾に準拠していながら本体の軽量化を実現し、MP5 SMGと比較してもCQB オペレーション任務における操作性は申し分ない。 また、ライフル弾の弾道安定性を確保するうえで限界に近い9インチという極めて短い銃身長でありながら、 過酷な環境下における十分な作動安定性を発揮し、実射時は50mの射距離で10cm以下というグルーピング(集弾性)の高さを誇る。 凶悪化するテロリズムに対するタクティカルアドバンテージ(戦術的優越性)を確保するうえで、 今後はG36CのようなCQBオペレーション任務向けコンパクトライフルが対テロ特殊部隊や警察SWATの プライマリーウェポンとして、さらに普及していくだろう。
▲G36シリーズのひとつであるG36Kを構えるオペレーター。ドイツ語で“短い”を意味する“Kurz(クルツ)”の名を冠したG36Kは、 G36の標準銃身長である18.9インチに対し、12.5インチの短銃身を搭載した特殊部隊向けカービンモデルである。 キャリングハンドルを兼用したサイトブリッジには、簡易式のオープンサイトに加え、光学器機で著名なカール・ツァイス社製の3倍率スコープを搭載している。 さらに、スコープ上部にはダットサイトなどのCQB任務向け各種光学照準器を運用できるように20mm規格のピカティニーレールが備えられている。 オペレーターの構えるG36Kには、近接射撃に適したEOTech社製のモデル551ホログラフィック・ウェポン・サイト(HWS)が搭載され、 標準装備のハンドガードはG36K専用に設計されたSUREFIRE社製のM570ウェポンライトに換装されている。 これはハンドガードと大出力ウェポンライトが一体となった複合モデルで、光束125ルーメンのメインライト(キセノンバルブ)に加え、 足元などを照らすためのサポートライトとして、低出力のLEDイルミネーターを備えている。 各ライトはハンドガード側面に設けられたテープスイッチを押している間のみ間欠点灯するが、固定スイッチを操作することで常時点灯させることもできる。 また、ハンドガード下部には20mm規格のピカティニーレールが備えられているため、フォアグリップやレーザーサイトなどの各種オプションデバイスの運用が可能だ。 画像ではメインライトのM570に加えて、予備のサブライトとフォアグリップの役割を兼用したSUREFIRE社製のM900ウェポンライトを装着している。
▲特殊部隊向けコンパクトモデルとして極限まで短縮化したG36Cよりも弾道安定性に優れた3.5インチ長い銃身を持ち、命中精度と携帯性の高さを両立した汎用性の高いカービンモデルのG36Kは、 各国の軍隊系特殊部隊や対テロ特殊部隊などの準軍事組織、米国内の警察SWATチームをはじめとした警察系特殊部隊、PMC(民間軍事会社)オペレーターなど幅広いタクティカルユースにおいて運用されている。
▲ドイツのH&K(ヘッケラー&コッホ)社製MP7A1は、抗弾装具に対する貫徹力に優れた独自の小口径高速弾薬を使用する
新世代小型SMGである。
開発当初はベルギーのFN(ファブリック・ナショナル)ハースタル社製P90と並んで、戦闘機などからベイルアウトしたパイロット
を対象としたサバイバルウェポンであるPDW(Personal Defense Weapon:個人用自衛兵器)を設計の基本コンセプトとしていた。
そのため、個人携行に優れた小型軽量な本体でありながら、従来のSMGを上回る長射程かつ高威力な
制圧火力を有するという相反する要求が課された。この無理難題な要求を見事に具現化したのが先述のFNハースタル社製P90と
H&K社製MP7である。
英国ローヤル・オードナンス社独自開発のMP7専用4.6mmX30弾薬は、P90専用の5.7mmX28弾薬と同様にライフル弾を小型化したボートテイル型の弾頭形状をしており、
弾頭重量は軽量でありながら、発射時の初速は一般的な拳銃弾の2倍以上となる秒速750mを誇る。
これは一般的な軍用小口径ライフル弾の初速に近い。
このため、通常の拳銃弾では対処不可能な200mの射距離でも、一般的に販売されているNIJ規格レベル3A相当の
ケブラー繊維製ソフトタイプボディーアーマーや軍用フラグメンテーションプロテクティブ(破片防御)ベスト、
バリスティックヘルメットなど、各種抗弾装具を無力化可能な高い貫徹力を誇る。
優れた貫徹力と射撃精度を有し、ロングマガジン装着時は40発の弾薬が装填可能な火力でありながら、本体重量
やサイズは従来のMP5 SMGを大きく下回る。
レシーバー本体の殆どは剛性の高い各種シンセティック素材(カーボンファイバー混入強化ポリマーなどの人工樹脂)で成型されており、
従来の金属製レシーバーをもつMP5 SMGなどに比べ大幅な軽量化とメンテナンス性の向上に成功している。
片手で楽に扱えるMP7の本体サイズは、空間が狭い航空機内や列車内、車両内での使用は無論、日本の一般的な
住宅家屋のようにMP5 SMGの本体サイズでも取り回しに
苦難するような極端な閉所空間においても、優れた操作性と十分な火力を発揮する。
また、サブマシンガンとしては最小サイズに属しながら、金属製伸縮式ショルダーストックと折り畳み式フォアグリップ
を標準装備しているため、射撃時の安定性にも申し分ない。
独自の操作系統を有するP90とは異なり、MP7では従来の普及機種であるMP5シリーズやG36シリーズ、USPシリーズ
などと同様の操作系統を踏襲し、 視覚的に認識できるピクトグラムタイプの操作表示を有するファイアー
コントロールセレクターやシンメトリーデザインの採用を始めとして、 国籍を問わず多方面に配備可能なユニバーサルデザインモデルとして完成されている。
さらに、本体上部にトップレール、左右側面にサイドレールも装備可能なため、ダットサイトなどの光学照準器の
搭載、ウェポンライトやレーザーサイトなどの各種オプションデバイスのの装着運用が容易である。
なお、MP7の作動機構には同社がMP5シリーズなどで長年得意としてきたローラー・ロッキング閉鎖機構ではなく、
同社のG36シリーズなど現代軍用アサルトライフルで多用されるガス・オペレーテッド方式によるロテイティング・ボルト閉鎖機構
を採用している。
本来、軍用のサバイバルウェポンであるPDWを運用コンセプトして開発されたMP7だが、その世界的需要が低下した現在では
CQBオペレーションや要人警護任務に適した基本性能が高く評価され、欧州を中心に世界各国の軍・警察特殊部隊
において採用が増加している。
なお、画像のMP7A1は、開発当初のMP7よりフルオート射撃時の安定性を向上させるため、
ボルトストロークを延長し連射速度を低下させ、その分ストックのバットプレートの厚みを抑えるなど
各所に若干のデザイン変更を行った現行型改良モデルであり、2004年にドイツ連邦軍に制式採用されている。
▲PDW(個人用自衛兵器)の先駆モデルであるMP5KA4 PDW(後方)と後発モデルのMP7A1(前方)の比較。 40連射マガジンを装着したMP7A1(4.6mmX30弾薬準拠)の方が30連射マガジンを装着したMP5KA4 PDW(9mmX19弾薬準拠) よりも全高が小さく一回り小型な印象を受ける。本体重量に関してもスチールフレームのMP5KA4 PDWに比べ、 ポリマーフレームなど各種シンセティック素材を多用したMP7A1の方が1kg近く軽量だ。 MP5KA4 PDWが折畳み式ショルダーストックを装備しているのに対し、MP7A1はスタンダードモデルのMP5A5などと同じく伸縮式ショルダーストック を装備しているため、ショルダーストック収納時はMP7A1の方が本体の厚みの面でよりコンパクトになる。 また、MP5Kシリーズのフォアグリップが固定式なのに対し、MP7A1はワンタッチでフォアグリップが折畳みが可能なため、 要人警護任務などに求められる拳銃に近い形態でのコンシールドキャリー(秘匿携帯)も容易だ。 さらに、専用マウントの装着が必要なMP5Kシリーズに対し、MP7A1は小型軽量な本体ながらも標準でピカティニー規格 20mm幅レールが装備されているため、光学照準器やウェポンライトなど、各種オプションデバイスの運用性も申し分ない。 そして、MP7A1は操作性に優れた小型軽量な本体デザインながら、9mmX19弾薬よりもリコイルの少ない特殊な4.6mmX30小口径高速弾薬 の採用により、多弾数かつ長射程を実現し、ボディーアーマーなど各種抗弾装具に対する優れた貫徹力と射撃精度を有している。 この従来のSMGとは一線を画する特徴が閉所空間におけるCQB(近接戦闘)など、近年の特殊作戦における ニーズと合致し、現在では世界各国の対テロ特殊部隊や警察SWATにおいてもMP7A1の採用が増加している。
▲対テロ特殊部隊や警察SWATが主要任務とするCQBオペレーションにおいては、プライマリーウェポンに最低限の オプションデバイスとして、大出力のタクティカル・ウェポンライトを装着する必要がある。 夜間における戦闘は無論、CQBオペレーションを強いられる建造物などの閉所空間には、日中でも必ず ロウライト・コンディション(低光度条件下)が存在するからだ。 また、タクティカル・ウェポンライトなど大出力のフラッシュライトには、光線を直視した照射対象者への眩惑(目眩まし)効果があり、 効果的にライトテクニックを駆使することで、照射対象者を一時的に行動不能にすることも可能となる。 さらに、射撃の際はウェポンライトの光軸と照準線の方向が同調するため、簡易的なポインターとして瞬間的な照準補助の 機能も期待でき、CQBオペレーションにおいて特に求められる射撃レスポンスタイムの短縮化にも加味する。 画像のMP7A1には、光学照準器としてナイトビジョンデバイス(暗視装置)対応モードを備えるEOTech社製 XPS3 HWS(ホログラフィック・ウェポン・サイト)、タクティカル・ウェポンライトとして、ハンドガン向けの 軽量コンパクトモデルであるITI社製 M3 LED-IR(暗視装置用赤外線補助光照射モデル)タクティカルイルミネーターを装着している。
▲スコープマウントやサプレッサーなど、特殊部隊向けガンアクセサリーの製造で有名なスイスB&T(ブルガー&トーメ)社製“HK MP7 Rotex-II”サウンド・サプレッサー(銃声抑制器)を装着したMP7A1。 MP7シリーズ専用に設計された本サプレッサーは、装着方式として一般的なマズルへのネジ込み式スクリュータイプではなく、 ロータリーロックとディテインスライド機構によって、フラッシュハイダーに直接装着するQD(クイック・デタッチャブル)タイプを採用しているため、 ワンタッチでサプレッサーの着脱が可能だ。本体はアルミニウムとステンレススチール製で重量約590g、全長は約220mm。 サプレッサーを装着しない場合に比べ、サプレッサー装着時は通常弾薬射撃時で約31デシベル、専用のサブソニック(亜音速)弾薬射撃時は38デシベルの減音効果を発揮し、 MP7と共に各国の軍・警察特殊部隊で運用されている。
セカンダリーウェポンとはタクティカルユーザー自身が戦闘においてプライマリーウェポンのサブとして
運用する補助武器である。小火器に限ればサイドアームとも呼ぶ。
対テロ部隊においてセカンダリーウェポンは、プライマリーウェポンが装填不良や排薬不良、撃発や弾薬の不備による
不発など、何らかの影響で故障して正常に作動しなくなった際など、即座に射撃の継続を行うためのバックアップガンの役割を果たす。
伝統的な軍隊の野戦部隊などでは、ライフルマンのプライマリーウェポンが何らかの作動不良を起こして
一時的に射撃が継続できない場合でも、多数の友軍がいる集団戦闘の中では大きな影響が生じることは少なく、
費用対効果などを鑑みてもセカンダリーウェポンを携行する必要性は薄い。
しかし、警察SWATや対テロ部隊など迅速なCQBオペレーションを専門とする部隊では、敵から反撃があり射撃の継続が
必要なタイミングでプライマリーウェポンが作動不良を起こした際、またはマガジンが空になった際など、強制排莢に
せよマガジンチェンジにせよその対処に要する数秒の時間が大きな隙となり命取りになる。
このような切迫した状況では即座に射撃を継続するため、すぐさま攻撃の手段を予備のセカンダリーウェポンに
切り替える必要がある。
このセカンダリーウェポンにはバックアップガンとして携帯性に優れた拳銃が用いられる。
CQC(近接格闘)戦術を得意とする欧州の一部の対テロ部隊では信頼性と堅牢性に優れたリボルバータイプが採用されて
いるが、世界各国の殆どの対テロ部隊ではマガジンの容量が多く、火力を集中でき速射性に優れたオートマチック
ピストルが好んで使用される。
各国の軍隊がサイドアームとして制式採用している拳銃は、性能の良し悪しだけでなく、調達価格や政治的事情など
様々な理由を含めて選定しており、軍隊で採用しているモデルだからといって必ずしも対テロ部隊で要求される
仕様を満たしているとは限らない。
実際に世界各国の代表的な対テロ部隊で採用されているモデルは、押し並べて数機種に限られるのが現状だ。
具体的にはSIG SAUER P220シリーズやグロックシリーズ、そして画像のH&K USPシリーズなど、どれも作動性や耐久性
、操作性の面などで長年にわたって多くのタクティカルユースから高い評価を得ている傑作モデルばかりである。
上部画像のH&K USPは我が国日本を代表する警察対テロ特殊部隊であるSAT(特殊急襲部隊)でも制式採用が確認されているほか、
海上保安庁のSST(特殊警備隊)ではSIG SAUER P228、海上自衛隊のSBU(特別警備隊)ではSIG SAUER P226などの
サイドアームの使用が確認されている。
メインアーム同様、サイドアームにも最低限のオプションデバイスとして大光量フラッシュライトを極力装備するのが
望ましいが、緊急用のバックアップガンの用途に徹底している場合はかさばるのを嫌ってライトを装備しない部隊も少なくない。
メインアームと同じく米国のSUREFIRE(シュアファイア)社製やITI社製のピストル用小型軽量タクティカルウェポンライトが好まれる。
ちなみに上部画像のH&K USPに装着しているのは、SAT(特殊急襲部隊)でも採用しているITI社製のUSP専用ライト
M2 UTL(ユニバーサル・タクティカル・ライト)である。
通常、サイドアームである拳銃は専用ホルスターに納めて携行する。
ホルスターは用途や目的に応じて様々な種類が存在するが、警察SWATや対テロ部隊などCQBオペレーションを専門とする
タクティカルユースでは、ボディーアーマーを着用しても支障をきたさないよう画像のように太もも部分に銃が
位置するサイホルスター(レッグホルスター)タイプが好まれる。
▲グリップフレームに装備された20mm規格レールシステムを介して、レーザーサイト兼用の大光量フラッシュライト (ITI社製M6X)を装着したSIG SAUER P226 RAILピストル。 1980年代に発表されたSIG SAUER モデルP226は、ドイツのザウアー&ゾーン社が製造する現代を代表する 軍用自動拳銃である。 その優れた耐久性・射撃精度から、現代軍用自動拳銃のひとつの到達点と名高い 傑作モデルであり、世界各国の軍・警察 組織を始めとして、常に最高品質を要求する対テロ特殊部隊や 警察SWATでも数多く採用されている。
▲野戦など従来の軍隊が行ってきた伝統的な戦闘とは異なり、CQBオペレーションにおいて拳銃は単なるセカンダリー・ウェポンとして の役割だけでなく、時にプライマリー・ウェポンとして積極的に活用される場合も多い。 航空機や船舶、列車や車両などサブマシンガンのサイズでも取り回しに苦慮するような極端な閉所空間における戦闘、 突入チームの先頭で防弾シールドを持ち、作戦行動中は基本的に片手しか使用できないシールドマンなどにとって、高性能な拳銃は有力な攻撃手段となる。 このような場合、夜間や屋内などの低光度環境に対応するためプライマリー・ウェポン同様、拳銃にも最低限の オプションデバイスとして大光量フラッシュライトを装着することが求められる。
現代の特殊作戦における非致死性兵器(NRW)の代表格と言えるスタングレネードはNFDD
(Noise and Flash Diversionary Devices:音響閃光陽動装置)と呼称される特殊手榴弾の一種であある。
その大音響と閃光など一連の作用を形容したフラッシュ・バン(flash & bang)という別名でも呼ばれ、
これは特にグレネード(手榴弾)という軍事的印象の強い名称を嫌う警察系特殊部隊やPMC(民間軍事会社)などでよく用いられる用語である。
軍・準軍事組織を問わず、現代における世界各国の対テロ特殊部隊などで標準装備されるスタングレネードは、
屋内への急襲作戦の一種であるダイナミック・エントリーを前提としたCQB(閉所空間における近接戦闘)に特化
した特殊手榴弾である。
ダイナミックエントリーは、人質救出作戦や掃討作戦、家宅捜索を始めとした屋内での特殊作戦における最も
常套的な強襲作戦の一種であり、スタングレネードを始めとした非致死性兵器や戸口破壊に用いる特殊爆薬
(TNT爆薬や高性能プラスチック爆薬)などの各種ディストラクション・デバイスを効果的に使用し、
迅速な行動と攻撃によって極短期的に対象を制圧する強行手段である。
ダイナミック・エントリーに代表される特殊急襲作戦の基本的手法は、特殊作戦部隊の始祖であり、世界最強の
勇名を馳せる英国陸軍特殊空挺部隊 “SAS:Special Air Servise”によって考案され、突入作戦などCQB専門の
対テロ任務を管轄するCRW(対革命戦)ウィングでは、屋内への突入を伴うCQBに特化した個人装備として
IPPS (統合個人防護システム)を研究・開発している。
敵対勢力の殲滅を至上命令として行動する軍事作戦において、市街地戦闘(MOUT)を始めとした CQBオペレーション
では屋内に篭城する目標を極短期的に突入して制圧(無力化)する際、破片手榴弾などの致死性手榴弾の使用が
極めて効果的である。
しかし、軍事作戦に関わらず警察SWATなどの司法機関における作戦も含め、人質救出作戦を始めとした
非戦闘員(人質や文民)という絶対的な保護対象が存在する状況、また目標の拘束や逮捕を前提とした
作戦では安易に致死性手榴弾を使用することは基本的に許されない。
このような人質救出作戦の敢行を伴う凶悪なテロリズムの嵐が欧州に吹き荒れた1970年代、屋内や機内に
おける突入作戦での使用を前提にSASが開発した最新の非致死性兵器こそがスタングレネードである。
スタングレネードは剛性の高いスチールなど鋳鋼製のチューブ本体、発火ヒューズと一体になった装薬
アセンブリーから構成される。
TNT炸薬などの強力な装薬を用い、弾殻が断片化して高速で散乱する通常の致死性手榴弾とは異なり、
スタングレネードの装薬にはマグネシウムやアルミニウムに酸化剤などを混合した特殊なフラッシュパウダーが用いられる。
このフラッシュパウダーは空気中での高速燃焼性に優れながら、燃焼に強力な光を伴うという特徴をもっており、
さらに爆発の膨張速度が音速に達しない亜音速で爆燃するため、衝撃破による被害を軽微に抑制できる。
チューブ本体には上面や底面、または外周に沿って一定間隔でホールがあけられており、装薬が起爆した
際に強力な爆圧を伴うブラストや爆音、5万ワット近い強力な閃光を周囲に伝播する。
この強力な閃光はカメラのフラッシュを直視したときと同じく網膜の感光性をもつ視細胞を活性化させ、
網膜の感覚細胞が脳に同じフラッシュイメージの連続情報を送り続けるため、閃光を直視した場合は
約5秒間にわたって対象の正常な視力を奪うことができる。
また、強力な爆音を伴う爆圧は、瞬間的といえども音圧レベルで強烈な痛覚を伴う180デシベル近くに
達し、内耳の三半規管内のリンパ液の正常な流動を妨げる。
人間は内耳の三半規管と眼球からの視覚情報を統合して適正な平衡感覚を保っており、通常は一方の情報が誤っていた
としても脳内で正しい情報に補正される。
しかし、スタングレネードは両者の情報を完全に麻痺させることで、高い確率をもって制圧対象者の適正な平衡感覚
を一定時間にわたり麻痺させ無力化することができるのだ。
このカウンターテロリズムにおける未知の新兵器とも言えるスタングレネードが実戦で初めて使用されたのは、
1977年10月に欧州で発生したルフトハンザ航空機ハイジャック事件であった。
クルーを含めて91人の乗員が登場した西ドイツ国籍ボーイング737型機が4人のパレスチナゲリラに占拠された
同事件では、当時創設から間もない西ドイツの警察系対テロ特殊部隊であるGSG-9(国境警備隊第9部隊)が
出動命令を受け、英国が誇る対テロ特殊部隊であるSASの作戦支援の下に人質救出作戦(マジック・ファイヤー作戦)
を敢行した。
機内への強行突入の際、GSG-9は当時最新鋭のサブマシンガンであったH&K社製MP5と共に新兵器であるスタングレネード
を使用、その威力は絶大で強力な閃光と凄まじい轟音によって一時的に思考を奪われ行動不能に陥った4人の犯人
のうち3名を射殺、1人を逮捕した。
結果、作戦開始から僅か5分あまりで機内は完全に突入部隊に掌握され、当時この種のハイジャック事件としては
奇跡的なことに人質と突入部隊の双方ともに1人の犠牲者も生じなかった。
この人質救出作戦の劇的とも言える成功は、当時対テロ特殊部隊の存在に懐疑的であった米国を始めとした
先進各国の相次ぐ対テロ特殊部隊の創設を促すと共に、人質救出作戦におけるスタングレネードを始めとした
各種ディストラクションデバイスの有効性を対テロ特殊部隊を運用する関係機関に広く認識させるに至った。
そして1990年代以降、軍・準軍事組織に所属する対テロ特殊部隊は無論、警察SWATやPMC (民間軍事会社)など
人質救出作戦を含むCQBを頻繁に強いられるタクティカルユースにおいて、スタングレネードを始めとした非致死性兵器
は任務遂行の性格上、絶対不可分な必須装備となっている。
画像のモデルは米陸軍の地上部隊や特殊作戦部隊、米国警察SWATを始めとした法執行関係機関にて使用されているM84スタングレネード。
米陸軍が開発した代表的なNFDDであるXM84/M84スタングレネードは、起爆と同時に 600万〜800万カンデラの強力な
閃光と170〜180デシベルの大音響を発し、制圧対象者の平衡感覚と敵対的抵抗力を一時的に喪失させることが可能だ。
リングタイプのプライマリーセーフテーィピンは、CQBオペレーションにおいて必須である厚手のタクティカルグローブを
着用していても確実に抜けるように通常の手榴弾のピンよりも大型で、さらに安全性向上のためデルタタイプの
セカンダリーセーフティーピンを備えているのが特徴。
スタングレネードは非致死性兵器ではあるが、少量と言えども爆薬を用いることに変わりはなく、絶対的に安全が
保証された兵器ではない。
足元などで爆発すれば火傷をする危険性が高く、稀に金属製の弾殻本体が爆発の圧力によって高速で吹き飛ぶ
ことがあり、実際に足に直撃を受けて骨折までした事例もある。
また紙や布などの可燃物や可燃性ガスなどが充満している空間で使用すれば火災を引き起こすこともある。
さらに強力な爆音を伴う爆圧は、イアープロテクションをしていなければ犯人だけでなく人質にも深刻な聴覚障害を
引き起こす場合もある。
寝室やリビングなど一般家庭の極端に狭い空間、幼い子供や心臓疾患の人質がいる場合などもスタングレネードの
使用は極力避けるべきだ。
なお、一般に起爆直後のチューブ本体は、素手で触れないほどの高熱状態であり、直後の取扱いには難燃性繊維で
縫製されたノーメックスグローブなどが必要となる。
スタングレネードを始めとした各種ディストラクションデバイスは決して万能の兵器ではなく、適正な使用方法を
誤れば作戦そのものが失敗し、隊員や人質の双方に犠牲を生む場合も十分に有り得る。
使用に際しては十分な訓練と状況に応じた使い分けが必要である。
警察SWATや対テロ部隊が専門とするCQBオペレーションは、航空機や船舶・車両のハイジャック対処に始まり、
一般の生活住宅から大使館の籠城対処に至るまで、ほとんどの場合で人工の建造物への突入(エントリー)を余儀なくされる。
計画性をもって建造物に籠城した犯人であれば、当然のことながらドアや窓などの出入り口には厳重に鍵を掛けたり
バリケードを構築するなど、突入部隊の侵入経路を極力封鎖するのが普通だ。
よって籠城犯の制圧にあたる突入部隊は、自らの侵入経路を確保するための突入用装備(エントリーツール)を
携行する必要があり、このエントリーツールには様々な種類の器材が用いられる。
隠密行動が原則のステルスエントリーに適したピッキングツールなどは鍵の掛かった戸口の解錠に不可欠な
エントリーツールだ。
また、大胆かつ迅速な急襲手法であるダイナミックエントリーを伴う場合は、手っ取り早く戸口そのものを
直接破壊するため、専用の破壊器材一式(ブリーチャーキット)をエントリーツールとして用いる。
アサルト用ブリーチャーキットには、破錠・ドアブリーチのためのバッテリングラムやハリガンバー、スレッジハンマー、
金属切断のためのボルトカッターやワイヤーカッター、窓ガラス破砕のためのグラスブレイカーなど、
用途に応じて使用方法の異なる器材が用意され、必要器材を専用キャリングバックで携行する。
元来ハリガンバーに代表されるエントリーツールは、消防士がレスキュー作業において用いる破壊器材として
開発されたが、現在では警察SWATなどの需要増加からローエンフォースメント向けに艶消しブラックの
低視認性カラーリングで統一された専用モデルも関連メーカーによって多数ラインナップされている。
画像のモデルは、警察SWATなどのローエンフォースメントやレスキュー向けの各種エントリーツールを
製造している米国B-SAFE社製のエントリー用ハリガンバーで、全長約50cm・重量約2kgのコンパクトモデルのため
乗り物や住宅など狭小空間でも携行・使用の邪魔にならないのが特徴。
このほか、エントリーツールには戸口の破壊を目的にした高性能爆薬(主にプラスチック爆薬やTNT爆薬)や
窓枠の鉄格子などを溶融切断するためのガス/アーク切断器材、さらに錠前や蝶番の破壊を目的にした
専用ショットガンなど目的に応じて様々な特殊器材が用いられる。
▲建造物・車両・航空機・船舶など、人工物への突入を余儀なくされる対テロ特殊部隊や警察SWATにとって、 その進路を切り開く各種エントリーツールは必要不可欠な存在である。 近年、各国のタクティカルギアメーカーが特殊作戦での使用を想定したモディファイを加えて、 “タクティカルエントリーツール”と称した様々なモデルをラインナップしている。
▲米国の大手総合タクティカルギアメーカーであるBLACKHAWK(ブラックホーク)社製の “TACTICAL BACKPACK KIT(タクティカル・バックパック・キット)”。 同社は“DYNAMIC ENTRY(ダイナミックエントリー)”というブランドで、数十種類にわたる 各種タクティカルエントリーツールシステムをラインナップしている。 本バックパックキットは、同社がラインナップする3点の用途の異なる主要タクティカルエントリーツール(下記に列挙)と、 これらをまとめて個人携行可能な専用キャリングバックを組み合わせたブリーチャー向けパッケージだ。 対テロ特殊部隊や警察SWATなどの各種ローエンフォースメントに加え、市街地戦闘任務を担う米軍海兵隊や 自衛隊の地上部隊をはじめとした各国のミリタリーユースでも多数採用されている最もスタンダードな ブリーチャーキットである。キットの総重量はフルロードで約11kgだが、着用者に合わせてサイズ調整可能な アジャスタブル・チェスト&ウエスト・ストラップの採用により、確実な個人携行が可能だ。
▲BLACKHAWK社製のダイナミックエントリーツール“SPECIAL OPERATIONS HALLAGAN TOOL(スペシャル・オペレーション・ハラガン・ツール)”。 エントリーツールとしては最もスタンダードなハリガンバーの機能を特殊作戦向けに特化したモデル。 通常のステンレス製ハラガンツールシリーズと異なり、ノンスパーキング・ハラガンツール・シリーズとして ラインナップされる本モデルは、可燃性ガスの充満など潜在的に不安定で危険な特殊環境にも対応できるように、 器材同士や他の金属をぶつけてたりしても火花を出さないノンスパーキング合金とコンポジット構造の採用が最大の特徴である。 両端に備えられた大型のフォークと角状のホーンエンドは、てこの原理を用いることでドアの解錠に絶大な威力を発揮する。 また、末端のホーン部分と他のハンマースレッジ(大槌)シリーズを組み合わせることで、南京錠の破壊が可能だ。 てこの原理を最大限に発揮するよう人間工学に基づいてデザインされたハンドル部分は、確実なグリッピングを可能とし、 交流電圧10万ボルトまで耐えられる非伝導性素材による“ファイバー・グラス・ハンドル・システム”が施されている。
▲BLACKHAWK社製のダイナミックエントリーツール“THUNDERMAUL(サンダーモール)”。 ドアや窓の破壊などに使用されるスレッジハンマー(大槌)機能と、斧の機能をコンパクトに一体化したタクティカルモール。 ハンマーヘッド部分には熱処理された高剛性の特殊炭素鋼が用いられており、幾度の強力な打撃にも耐える堅牢さを確保している。 また、握り易い特徴的デザインの“シュアグリップ・ハンドル・システム”の採用により、重量のあるハンマーヘッドを大きく振りかざしても 確実な保持と対象物の破壊が可能だ。他のシリーズと同様、グリップには交流電圧10万ボルトまで耐えられる 非伝導性素材によるファイバー・グラス・ハンドル・システムが施されており、緊急時には配線や配電盤の破壊も可能である。
▲BLACKHAWK社製のダイナミックエントリーツール“BOLTMASTER(ボルトマスター)”。 有刺鉄線や鋼鉄製フェンスなどの各種鉄線、南京錠などの錠前やセキュリティーメタルチェーン、 フェンスバーなどを切断するための軽量かつ耐久性に優れた特殊作戦向け専用ボルトカッター(手動式強力カッター)だ。 持ち手のセーフティーガード付きハンドルグリップ部分は、交流電圧10万ボルトまで耐えられる 非伝導性素材によるファイバー・グラス・ハンドル・システムが施されており、 夜間の突入作戦時に備えて非常時には通電中の照明配線などの切断も可能な設計である。
▲BLACKHAWK社製のダイナミックエントリーツール“TWIN TURBO(ツウィン・ターボ)”。
バッテリングラム(破城槌)は、質量のあるラム本体を勢いよく衝突させた際に生じる運動エネルギーをもって、ドアや門を強制解錠する最も
原始的かつ常套的なエントリーツールだ。
同モデルは同社のフラッグシップモデルであり、各国のタクティカルユースの間でも最もスタンダードなバッテリングラム
として採用されている“MONOSHOCK RAM(モノショック・ラム)”を
延長増量・高威力化したツーメン(2名)運用バージョンモデルである。
“MonoShosk RAM”より全長約20cm・重量約5kg増した全長約1m・重量約19kgを有し、
製品名の通り1名だけではなく2名のオペレーターでの運用を可能としている。
ラムの材質には本体をぶつけた場合などに火花の発生を防止するノンスパーク合金を採用し、交流電圧10万ボルト
まで耐えられる非伝導性素材による絶縁加工が施されているのが特徴だ。
さらに、ラム本体を支える持ち手のハンドル部分には、可動式の“コントロール・フレックス・ハンドル・システム”が
採用されており、オペレーターに伝わるブリーチングのインパクトストレスを最小限に止めることができる。
また、ラムの運搬用にクッションパッドが装備されたクイックリリーススリングが標準で付属する。
スタンダードモデルの“MONOSHOCK RAM”と同様、派生モデルの“TWIN TURBO”も最も標準的な
エントリーラムとして、米国の警察SWATをはじめとした各種ローエンフォースメントや
各国の特殊部隊で採用されており、我が国では警視庁の特殊急襲部隊(SAT)が同社の
“MONOSHOCK RAM”ないし“TWIN TURBO”を制式採用していることが公開訓練で確認されている。
(右)BLACKHAWK社製のダイナミックエントリーツール“CQB RAM”を保持するタクティカルオペレーター。
このCQB RAMは全長約50cm・重量約10kgのスペックを有し、同社がラインアップするダイナックエントリーシリーズにおいて、
最小・最軽量コンパクトモデルのバッテリングラムである。
その軽便さから一般的なバッテリングラムに比較してアパートや一般住宅など、狭い室内空間での取り回しが容易であり、警察SWATのほか、
軍地上部隊など長時間にわたってバッテリングラムを運搬する機会の多いブリーチャーの体力的負担も必要最小限に抑えられるのが特徴だ。
また、全長と重量を必要最小限に抑えたことから、通常のバッテリングラムとしての使用のほか、頭上に振り上げてハンマーのように使用することも容易である。
同社のラインアップする他のバッテリングラムシリーズと同様、ラム本体を支える持ち手のハンドル部分には、使用時のブリーチャーに対するインパクトストレスを
最小限に抑える可動式の“コントロール・フレックス・ハンドル・システム”を 採用、さらにラムの材質には本体をぶつけた場合などに火花の発生を防止する
ノンスパーク合金を採用し、交流電圧10万ボルト まで耐えられる非伝導性素材による絶縁加工が施されている。
軽量でコンパクトなCQB RAMは使い勝手が良く、様々な作戦環境に対応可能なことから、CQBオペレーションを専門とする各国の対テロ特殊部隊や警察SWATをはじめとして、
市街地戦闘に従事する米陸軍や米海兵隊など一部の軍地上部隊などでも採用されている。
▲迅速なドアブリーチには専用ショットガンの利用が効果的で、 SASをはじめとした第一線の対テロ特殊部隊や市街地戦闘を行う米軍の地上部隊などでも好んで用いられる方法だ。 ショットガンを利用したドアブリーチでは、発射された弾頭の運動エネルギーを用いて、錠前や蝶番(ヒンジ)など ドアの鍵や固定部品を局所的に破壊することで、施錠されたドアを解錠する。 セミオートマチック連射機能を備えた通常のモダンコンバットショットガンとは異なり、 ドアブリーチ用ショットガンには信頼性の高いポンプアクション式ショットガンが好まれる。 加えて、携帯性向上のためショルダーストックやサイティングデバイスは省いたソードオフ (短銃身)モデルが使用されることが多い。 実際にはレミントン社製の定番ポンプアクション式ショットガン であるM870シリーズの採用が各国でも多数を占める。 スラッグショット(一粒弾)など通常の弾薬でも錠前や蝶番などの破壊は可能だが、貫通した弾がドアの背後にいる人質を 傷付ける可能性や跳弾の心配があるため、普通は使用さない。 このため、ドアブリーチ用ショットガンには、ブリーチング専用弾薬として製造されるブリーチングラウンドが使用される。 セラミックスやアルミニウムなどが弾頭に使用される専用のブリーチングラウンドは、 錠前など対象の破壊後に弾頭が粉状に 粉砕されるため、跳弾や人質を傷付ける危険性が少ないのが最大の特徴だ。 他のエントリーツールに比べ、迅速かつスマートなドアブリーチが可能な専用ショットガンだが、 撃ち抜く箇所や角度を僅かでも誤ると不完全破壊となることも多く、人質救出作戦などにおける 実際の運用には高度な反復訓練と知識が必要とされる。 ショットガンによるドアブリーチ手法が訓練時間や施設の充実した第一線の対テロ特殊部隊や軍隊に限って 利用されることが多いのはこの影響が大きいといえる。
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