現代の軍事活動や警察活動に無線通信機器は必要不可欠なもである。 電波を利用する無線通信は長距離での車両や個人を含む移動体通信を可能とし、リアルタイムで組織と個の意思疎通による有機的な結合を可能とした。 部隊単位での意思疎通に重きが置かれた軍隊の伝統的な野戦部隊では、通信兵など特定の個人のみが無線通信機器を携行することが多く、 部隊で統一行動をとる多くの個人は無線通信機器を携行する必要がなかった。 しかし、警察SWATチームや対テロ特殊部隊をはじめとした少数精鋭の特殊作戦部隊では、作戦に参加する個々人に大きな役割と責任が課され、部隊行動での高度な戦術的連携を不可分とする。 部隊全体での情報共有などマクロ的な部隊指揮系統を含む個々の意思疎通において、非常に重要な役割を果たすのが個人携帯無線通信機器などの各種コミュニケーション・ツールである。 特に警察SWATや対テロ特殊部隊の主要任務である人質救出作戦では、突入部隊と指揮本部における正確かつ迅速な情報の共有が作戦成功の鍵を握ると言っても過言ではない。 一般にダイナミック・エントリーなど、複数の突入部隊が加わる攻撃的な奇襲手法を伴う人質救出作戦はタイミングとスピードが命であり、作戦開始後の状況は僅か数秒から数十秒単位で刻々と変化する。 最終突入地点への終結後、内外に配置した情報収集部隊や狙撃部隊からの情報を基にし、最も適切なタイミングに指揮本部から突入命令が下され、 突入を開始した突入部隊からは犯人の制圧進行状況や所在、人質の安否、 隊員の受傷などについて突発的なイレギュラーを含む様々な情報が指揮本部に送られる(無線通信の運用方法は部隊の通常作戦規定や個々の作戦によって異なるため、 作戦によっては混信防止のために現場部隊からの無線通信を突発事態発生時など必要最小限に統制する場合もある)。 これらの情報を分析統合した指揮本部は、作戦の進行に支障をきたさないように適切な行動指示を速やかに現場部隊に指示しなければならい。 これらの情報伝達に用いられるのが個人携帯用の無線機だ。送信機と受信機が一体となった無線機をトランシーバーと呼ぶ。 同時に双方で会話ができる複信方式の電話と異なり、一般的にトランシーバーは送信か受信を交互に切り替える半複信方式を採用している。 トランシーバーの電源を入れた際、通常は受信待機状態となり、送信のためのPTT(Push to Talk)スイッチを押下している間のみ送信状態に切り替わる。 つまり自分が話している間は相手の話を聞くことはできないし、相手が話しているときに自分から話すことはできない。 一見して双方で同時に会話ができる電話に比べて利点が少ないように感じるが、この方式の大きな利点は、一斉通話による組織的な情報共有が容易なことだ。 トランシーバーの電源さえ入れておけば、仮に自身への指令でなくても同一チャンネルを使用する全ての無線局の無線交信情報を聴取することができるし、 逆に個々人が送信した無線交信情報はリアルタイムで全ての無線局が瞬時に共有できる。 代表的な例が基地局や移動局(個人、車両、航空機、船舶など)から成る無数の無線局を運用する警察無線だ。 緊急指令など基地局からの一斉指令は、瞬時に数百に及ぶ全ての移動局で共有でき、 さらに現場に到着した移動局から送られる情報は司令機能のある基地局や他の移動局でも共有され、相互の連携による迅速で組織的な対応を容易にする。 通常、軍・警察などのタクティカル・ユース、特に対テロ特殊部隊で用いられるトランシーバーは、個人携行可能なサイズのハンディ・トランシーバーが一般的だ。 これらのトランシーバーは、外部に通信内容が傍受されることを防止するため、送受信情報をデジタル暗号化する盗聴防止機能を備えている。 秘匿性の高いデジタル無線機の普及により、このような第三者への情報漏洩を防ぐ最低限のセキュア通信機能は必須となった。 ちなみに米国内の警察SWATチームをはじめとして、欧米の法執行関係機関所属の特殊部隊が使用するハンディ・トランシーバーは、 無線通信機器の世界的大手メーカーであるMOTOROLA(モトローラ)社製の製品が大きなシェアを誇る。 警察SWATチームや対テロ特殊部隊において、コミュニケーション・システムはトランシーバー単体のコンポーネントだけでは成立しない。 CQBでは基本的に少なくとも常に一方の手は武器でふさがっており、悠長に手でトランシーバーを取り出し、会話している余裕はない。 従って特殊部隊では、マイク・システムとスピーカー・システムの内蔵されたヘッドセットをあらかじめ頭部に装着しておく。 送信する際は、通常トランシーバー本体に設けられているPTTスイッチを用いず、ヘッドセットとトランシーバーの中間に設けられた特殊なPTTスイッチ・ユニットを用いる。 これらのPTTスイッチ・ユニットは、ボディー・アーマーやタクティカル・ベストなどの装身具に固定するのが一般的だ。 PTTスイッチ・ユニットは厚手のタクティカル・グローブを着用していても必要なときに的確に音声送信ができるようにスイッチ部分が大型化されたモデル、 反対に意図しない誤送信で限られた通信回線の混乱を防ぐため、 スイッチ部分が極力小型化されたり、一定方向からしか押下できないようにPTTスイッチを覆う大型のシュラウドの付いたモデルなどがある。 また、ヘッドセットには搭載した種類の異なるマイク・システムやスピーカー・システムの違いによって様々なモデルがある。 最もスタンダードな露出型ブームマイクとヘッドホン型のスピーカーを採用したタイプにはじまり、 喉元の声帯振動を利用したスロート・マイクシステム、骨伝導技術を利用したボーン・コンダクション・マイクシステム、 近年では射撃時やディストラクション・デバイスなどの爆発時に生じる聴覚に有害な大音量のハザード・ノイズのみを電子的に減衰し、 会話などの周辺環境音のみ集音して出力するノイズ・キャンセリング機能を備えたイヤー・マフラーに、 スピーカー・システムとマイク・システムを組み込んだモデルも数多く採用されるようになった。 それぞれ運用上の異なった特性があるため、一概にどれが優れているというわけでなく、 どのようなコミュニケーション・システムを採用するかは実際の運用部隊の性格に左右されるところが大きく、運用環境に応じた適正な選択が求められる。
■ TEA LASH II Tactical Throat Microphone Headset
― TEA LASH II タクティカル・スロート・マイクフォン・ヘッドセット |
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■ New Eagle Bone Conduction Headset
― ニュー・イーグル ボーン・コンダクション・ヘッドセット |
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