昨今、世界的な人気を博する米国ハリウッド映画や海外ドラマの影響から、時には主役として、時には脇役として登場する
機会の多い警察特殊部隊“SWAT(スワット)”。
登場作品の増加に比例して、その知名度は世界的にも驚くほど高くなった。もちろんそれは日本でも例外ではない。
今日ではこの単語を知っていること自体が、社会常識の範疇になったといっても差し支えないように思うほどだ。
ただ、この一般の人々の認識は、「SWATとはアメリカの警察がもつ特殊部隊」ないしは単に「特殊部隊」程度の
ものが大半で、名前だけは知っているものの本来の意味は知らず、一部誤った認識をもつ人々も見受けられる。
「ではSWATとは何か?」と問われると、この質問に答えるのは簡単なようで意外と難しい。
その理由は“SWAT”という単語が、単に元来の固有名詞としての意味だけでなく、その運用に係わる広義な
概念をもつためだ。
“SWAT”という単語について国内の代表的な辞書を引くと大まかに次のように書いてある。
『スワット【SWAT】《 Special Weapons and Tactics 》
米国警察の特殊部隊。特殊火器を装備し、凶悪事件など特殊任務に機動的に対応するための警察部隊。
1960年代後半にロサンゼルス市警で最初に創設され、各地の市警などに置かれている。』(小学館 大辞泉より)
これは必要最低限の最も簡潔な定義付けではあるが、一般常識の範疇としては必要十分すぎるほどの解答例といっていいだろう。
だが、これだけでは具体的にSWATがどのような凶悪犯罪に対処し、それらの凶悪犯罪に対してSWATがどのような
コンセプトと特殊装備をもって対応するのかまでは分からない。
SWATに関する話を俎上に載せるうえで、この「どのように」という核心部分を理解していないと、関連した議論や
考察は完全に誤った方向に進む。
例えば近年、我が国では銃器犯罪の増加や国際テロリズムなどへの対処を目的に、警察を始めとした関連機関に相次いで
特殊部隊(ないし特殊部隊に近い組織)が編成されているが、実際に立て篭もり事件などが発生すると一部の世論では、「アメリカのSWATのように即刻
突入して犯人を射殺すべきだ」という論調が持ち上がる場合が多々見受けられる。
しかし、これらの論調の多くは、映画やドラマなどのフィクションの存在のなかで描かれるSWATから得た誤った認識であり、
完全に現実のSWATの存在意義を無視したナンセンスな考え方だ。
現実にはSWATの武力行使は、人質の生命に切迫した危険が迫るなど、他に代わる手段のない場合のファイナル・オプション(最終手段)であり、
通常はネゴシエーター(犯罪交渉人)を通じた平和的解決を目指すのがセオリーである。
また、仮にSWATが武力行使を行う場合でも、犯人を極力生きた状態で“逮捕”することに重きが置かれる場合が多い。
これは犯人(テロリスト)の殲滅(射殺)を前提とすることの多い軍隊系特殊部隊や一部の警察対テロ特殊部隊の性格と大きく異なる特徴だ。
ここからは知名度の高さに反して誤解を受けやすい“SWAT”の基本概念と存在意義、さらに主要任務や運用装備
について分かりやすく述べていきたい。
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